大正12年の創業以来、徳島に生産拠点を構え、自動車用のパーツ、ナット等を製造している西精工。社長と全社員とのメール交換などにより社内のコミュニケーションを深めるとともに、長時間の朝礼や書くことを重視した人材育成により経営理念の浸透を図っています。
こうした取り組みが評価され、第1回「四国でいちばん大切にしたい会社大賞」において中小企業基盤整備機構四国支部長賞を、第3回 「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」 において中小企業庁長官賞を受賞されました西精工の代表取締役社長 西泰宏さんにお話をうかがってきました。
-昨年、「四国でいちばん大切にしたい会社大賞」で中小企業基盤整備機構四国支部長賞を受賞されました。受賞されたときはどんな気持ちでしたか。
西さん
とても仲のいい徳武産業さん(香川県さぬき市)と一緒に受賞できたのがうれしかったですね。一緒に頑張っている一体感みたいなものを感じました。
「四国でいちばん大切にしたい会社大賞」と「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」は一緒のものさしだと思うんですけど、非常によく似ていますよね。社員とその家族が一番ですよと言っていて、受賞前は意識せずに取り組んでいたと思うんですが、受賞後はそれを強く意識するようになりました。
-いい会社をつくろうとしたきっかけはなんですか。
西さん
15年前、会社を継ぐために東京から徳島に帰ってきましたが、会社の雰囲気が暗かったんです。それと、自分たちの作った製品が工場内にいっぱい落ちていました。
僕は広告代理店にいたんですが、自分たちが作ったコマーシャルや記事がテレビや雑誌に出て、それを見てみんなが笑うとか商品を買うとかしたら嬉しいんですよ。
でも、自分たちの製品が落ちていても拾わないというのは、自分の現場や自分たちが作っているものに対してあんまりこだわりがないのかなと。そういうのを含めて暗いというところだったんですよね。そこで、まず挨拶と掃除から始めました。
-挨拶と掃除を始められて、会社の雰囲気はすぐに変わったんでしょうか。
西さん
すぐには変わらないですよ。やらされ感いっぱい。何人かの人はついてきてくれましたが、だいたいの人は、そんなことして何になるのって思っていたんじゃないですか。でも、自ら率先してやっていくしかないですよね。挨拶して、朝一番に会社を掃除して。
-大きく変わったきっかけは。
西さん
もちろん徐々に変わっていったんですけど、すっと腹に落ち始めたのは、2006年に「ものづくりを通じてみんなが物心共に豊かになり 人々の幸福・社会の発展に貢献すること」という経営理念を作ってからでしょう。
それまで、挨拶ができて掃除ができている会社は元気でいい会社だ、だから挨拶するべきだ、掃除するべきだと、規範ばっかり言っていたんです。社員にこうしてあげたいというのが欠けていました。経営理念によって、「僕はこうしてあげたい」という気持ちが入り、雰囲気が良くなったんじゃないかなという気がします。少なくとも僕は変わりました。するべきだというところから、してあげたいと思うようになりました。
-経営理念のほかに、創業の精神というのもありますね。
西さん
経営理念と創業の精神はセットで考えています。創業の精神は、2010年に父と2泊3日の合宿をしてつくりました。創業者である祖父がどういう働き方をしていたのか、その頃のお客さんや協力会社とのこと、地域にどんなことをしてきたのか、従業員にどんなことを語りかけていたのかなどを父に思い出してもらいました。そして、会社が一番大切にしたい精神を導き出していきました。そこから導き出された「人間尊重」、「お役立ち」、「相互信頼関係」、「堅実経営」、「家族愛」という5つの精神は、西精工が90年続いている理由です。これを1つでも失ったら、会社はすぐにおかしくなると思っています。これからどんなことがあっても、創業の精神は大切にしていかなければならないと考えています。
-経営理念を社員にはどのように伝えていったんでしょうか。
西さん
毎日、パソコンを通じて社員に言葉を投げかけました。A4版で1枚、多いときは2枚ぐらい、会社の中で大切なものはこれですよ、僕はこう思いますよというのを社員に送り続けました。そして、社員がそれに対して毎日返事をくれました。それをずっとやり続けて、経営理念を浸透させていきました。このときのやり取りは、西精工フィロソフィーとしてまとめられ、今はそれを朝礼で活用しています。
-どんな朝礼をされているんですか。
西さん
朝礼ではグループごとに、200ぐらいあるフィロソフィーの中から1つを選び、自分のことに置き換えて考えてみたり、話し合いをしたりしています。経営者やリーダーが一方的にしゃべる朝礼ではなく、考える朝礼です。自ら考え、自ら行動するために朝礼をしています。
例えば、毎日40分も50分も朝礼をしていると、その時間に機械を稼働させておきたいと思うようになります。そうすると、どうしたら機械を無人化できるかとか作業を自動化できるかとか、いろいろ考えるんですよ。創意工夫が生まれ、仕事に対するやらされ感がなくなって、チームワークも発揮します。朝礼を長い時間することで、むしろ生産性は上がっています。
また、火曜日には、社員が書いた作文を読んでどう思ったかということを話し合っています。
-社員が作文を書くんですか。
西さん
そうなんです。毎週、全社員が作文を書くことになっていて、ベスト2とかベスト3を選び、コピーして渡しています。お客さんとこういうことがありましたとか、社員同士でこういう話がありましたとか、協力会社とこういう話がありましたとか、いい話が多いです。家庭での話もありますね。作文にはリーダーが必ずコメントをくれるので、自分の思いがリーダーまでちゃんと伝わるということもメリットです。リーダーだけでなく、係長、課長、部長くらいまではコメントをくれます。1行ずつくらいですけど、いいコミュニケーションツールになっています。
-こうした取り組みは、会社の売り上げにつながっているんでしょうか。
西さん
売り上げや利益を上げるのが目的ではないんです。経営理念とか、ビジョンとかを実現させることが僕らの目的です。お客様の役に立ちなさい、そういう製品を作りなさい、サービスしなさい。そうすれば必ず売り上げや利益は出てくるんだからと社員には年がら年中言っています。
こうした取り組みが何かにつながっているかというのは、現場に現れています。現場に行けば、社員がどれだけいきいきと働いているかとか、現場がどれだけきれいになっているかとか、全部分かります。
-御社のブログには、サークル活動とか、誕生会とか、コンパとか、いろんなイベントのことが書かれていて、楽しそうな雰囲気が伝わってきますね。
西さん
フィロソフィーを共有して社員のベクトルをあわせていく中で、ああいう雰囲気が生まれてきました。
当社のイベントは多いです。僕も予定が空いていれば全部行きます。かみさんには、邪魔しちゃだめよと言われています。いろんなイベントがあるのもひとつの良さですね。例えば、野球は苦手だけどサッカーはいけるとか、スポーツはだめだけどボランティアをしたいとか、何か参加できるものがあると思います。
でも、期待しているのはお世話役です。イベントも総務がやるわけじゃなくて、野球だったら野球部がいるし、サッカーだったらサッカーを中心にしている人がいるし、清掃活動とかバザーとかもそうです。とくしまマラソンにはランナーも運営ボランティアもいますが、やっぱりお世話役の人がいて、それが人間的に成長します。参加するより参画ですね。ただ行くだけではなくて、行って何をするかが問題であって、何かちょっと創意工夫してやれば、もっとそのイベントが楽しくなります。
-社長から見て会社とはどんな存在ですか。
西さん
家族そのものですね。
-そんな家族の自慢したいところは。
西さん
自慢だらけで言えません。素直だし、まじめだし、情に厚いし、他人のことに時間も使うしお金も使う。社長が差し入れをするのは当たり前だけど、休日出勤している社員に仲間が差し入れしますからね。誰が言うでもなく、ちょっと寄って顔を出したりとか、自然にしています。
-これからの会社の方向性について教えて下さい。
西さん
ビジョンで「ファインパーツを創造する」と決めているので、それが方向性です。その他にも、こういう商品を伸ばしたいとかこの製品の精度を上げたいとか、細かいことはいろいろあります。でも、一番やりたいのは、月曜日にワクワクして出勤する会社にすることですね。社員満足度アンケートの項目にもなっているんですが、これを100パーセントにまで高めていきたいと思っています。
掲載日:2013年10月31日 取材者:A・T