四国びと


地域の思いを形にしていくことが、僕らの仕事

蜂谷潤さん うみ路

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 2013年3月、高知県の東の先端、室戸で海のビジネスとして一般社団法人 うみ路を立ち上げた青年がいます。蜂谷潤さんは、岡山県で育ち、高知大学農学部で栽培漁業を学び、学生ビジネスプランコンテスト キャンパスベンチャーグランプリ 四国大会で最優秀賞、全国大会で文部科学大臣賞を受賞。その後、内閣官房の地域活性化伝道師に登録。地元の漁師やお母さん方とともに、アワビ・コンブ・メジカなどの海洋資源のブランド化に意欲的に取り組んでいます。
- 岡山出身の蜂谷さんは、どうして高知の大学へ行こうと思われたのですか? 蜂谷さん - はじめは、「日本の水産業を変えるぞ」みたいなことはなくて、海が好きだったのと、両親ができれば近場にいて欲しいというのがあったので、栽培漁業を学べる高知大学の農学部を選びました。それくらいの軽い気持ちでした。 -栽培漁業* を研究していたのですか。 蜂谷さん - そうです。僕が所属していた研究室の平岡先生とのつながりが、原動力になっています。

* 栽培漁業:栽培漁業とは、卵から稚魚になるまでの一番弱い期間を人間が手をかして守り育て、外敵から身を守ることができる大きさになったら、海に放流し、自然の海で成長したものを獲る漁業。養殖漁業との一番大きな違いは、魚を海に放流すること。

- 大学時代にビジネスプランコンテストで受賞されていますが、どのようなきっかけだったのでしょうか。 蜂谷さん - 室戸にはちょっと変わった育て方をしている青海苔の養殖施設があります。青海苔を水槽の中でぐるぐる回しながら浮遊させて育てているんです。この養殖施設は、技術特許をもっている平岡先生と室戸の漁協が協力してつくったものですが、そこからの排水が1日1500トンくらい出ています。「これを使って何かできないか」と先生から言われたのがきっかけで、排水を使ってアワビを育てるというアイディアを思い描いていました。その時、たまたま大学の掲示板で「100万円」と言う文字を見たんです。学生ビジネスプランコンテストのポスターでした。このプランが実際にビジネスとして成り立つのかどうかという興味もあって、一度まとめてみようって思ったんです。ひょっとしたら100万円もらえるかもしれないし (笑)。
- どのようなビジネスプランだったのでしょう。 蜂谷さん -高知県室戸市でとれるトコブシは、殻の大きさは他の地域でとれるものと同じですが、実の詰まり方がぜんぜん違います。室戸にはトコブシの餌となるテングサがたくさん生えているため、実の詰まった質の高いトコブシが育つんです。しかし、一見すると普通のトコブシと一緒なので、分かりません。それをなんとかして、他の地域のトコブシと差別化できないかなと考えたのが「ヤイロトコブシ」というアイディアでした。

 トコブシは、食べる海藻によって貝殻の色が変化します。これは自分の住む海の風景になじんで捕食されまいとする生きる知恵なのですが、この性質を利用しました。青い海藻、赤い海藻、茶色い海藻と、毎年与える海藻の色を変えていくと綺麗な縞模様のトコブシができあがります。これが「ヤイロトコブシ」です。こうすると、室戸でとれたものだと一目で分かります。



 さらに、アワビの排泄物から溶け出す窒素やリンなどを含む栄養豊富な海水を利用して海藻を育て、利用した海水を海へ放流することによって、水温上昇で消失した藻場を再生させることもできます。温度が低いという海洋深層水の性質を利用するわけです。餌や種苗を自分たちで生産するこの養殖方法は、環境への負荷も少なく、持続可能な仕組みと言えます。

-それが見事、学生ビジネスプランコンテスト四国大会で最優秀賞、全国大会で文部科学大臣賞を受賞されたわけですね。 蜂谷さん - 本当にいろんな方に助けていただいて受賞することができました。僕にとって大きかったのは、受賞後の地元の反響です。ローカルの新聞やテレビで扱ってくださると、地元の人がみんな知るわけですよ。それまでは「なんかよく分かんない大学生が室戸に来ている」くらいだったのが、「あの子はすごく室戸のためにがんばってる」って、みんなが認知してくれるようになって、いろんなことが一気に動き出しました。

-地元の人にとってもうれしいニュースですね。 蜂谷さん -ある民宿の方に「トコブシに変わるあわびやサザエが、室戸では獲れないので、君のような存在はうれしいんだ。」と言って頂けたのはうれしかったです。室戸という地域はトコブシという貝が4月から9月までたくさん獲れるのですが、漁期が終わる秋以降は、「トコブシありますか」って民宿に電話がきても断らないといけないのだとか。これでは、お客さんが離れていってしまいます。アワビやサザエは室戸では天然では水揚げされませんが、養殖だと年中出荷することができます。
-何をやっているのか地域の人が知ってくれている。大きな変化ですね。 蜂谷さん - その賞をもらってからは、みんな僕に期待をしてくれるようになりました。それで僕もその気になってきちゃって、実際に室戸の現場で養殖してみようということになったんです。

-受賞したビジネスプランを実際に形にするのは大変だったのではないでしょうか。 蜂谷さん - 大変でした。あわび養殖マニュアルというのがあるんですが、「1年で4cm太ります」と書いてるのに、2cmしか太ってないとか。「90%生き残ります」って書いてあるんですが、50%死んでるとか。いろいろあるんです。それとしばらくして気づいたのは、ちゃんとマニュアルどおり生産できても、儲からないなということです。どこがネックかというと、外から稚貝を買って来ようとしてたんです。稚貝を買ってきて、それを太らせて売るということをメインで考えていたんですが、稚貝が高いわけです。50円で買って100円で売るけど半分死んでしまいます。そんなビジネスは成り立ちません。翌年からは、自分たちで孵化させるところからはじめることにしました。孵化させて放流するのと、さらに育てて食用として売る。この2つで進めていくことにしました。

 ところが、生産の部分が確立されてきたとしても、今度はどうやっていくらで売ったらいいのかわからない。そこで東京とか大阪に出向いて、いくらで買ってくれますか?と聞いて回りました。でも、大学と室戸市の共同研究ですから、売ってはいけないんです。そうすると、モノはあるのに、市場の反応がみえてこないということになります。そこで、会社を立ち上げて、室戸の地域資源をブランドとして広めていこうと動き出したわけです。
-研究からいよいよ実際の現場で動き出したわけですね。会社を立ち上げるのは大変だったのでは? 蜂谷さん - 地域のニーズが集まるところで仕事がしたいというのがあったので、室戸市が応援してくれました。まずは、周りの人がやりたいようにできて、それが継続できたら一番いいなと思っています。最後まで僕らが関わるんじゃなくて、徐々に手を離して、地元のお母さんや漁師さんたちが自立して動いていくのが一番理想の形と思っています。
-儲けたいという気持ちは? 蜂谷さん - 儲けることそのものより、何のために儲けるかというのが大事です。僕ががんがんお金を稼ぎたいなら、株式会社にしてます。一般社団法人って配当金をもらえないですから。がんがん稼ぐというのではなくて、事業として回していけるようにして、最終的には、お母さんたちに預けられるようにする。そのために稼ぐというのは地域にとって必要な仕組みだと思います。
-地域に対する熱い思いは、どこからくるのですか。 蜂谷さん -メジカという魚も加工しているのですが、それも地元のお母さんや漁師さんの思いから始まっています。この魚は、多い時は1日に50トンも獲れるんですが、獲れれば獲れるほど単価が下がり儲けになりません。お母さんたちの中には、県外で働きに出ている人もいます。でも本当は、みんな地元を離れたくない。高知の人はみなさん高知が好きですが、室戸の人は特に室戸が好きなんですよ。

-そういう思いを知れば知るほど「なんとかしないと」っていう気持ちが沸いてくるわけですね。 蜂谷さん -そうです。漁師さんやお母さん達が何を必要としているのかがはっきりと見えてきました。それをなんとか一緒に形にしたくて、「むろっと」という室戸のブランドを立ち上げました。さまざまな人のアドバイスを受けながら、低温の油で調理するメジカのコンフィを商品化し、販売を始めました。
自分のやりたいことが、周りの人たちの喜びに変わっていくのは嬉しいですね。 蜂谷さん -ビジネスプランコンテストでの賞をもらって帰ってきてからの、周りの人の声を聞いて、その中に自分がいられる幸せ、みんなが期待してくれる感覚がとても嬉しかったんです。その時、自他満足になっていけばいいなと思いました。

 実ははじめそういうことを事業として実際に回している人が、周りにいなくて、これって事業としては成り立つんだろうかっていうのがぜんぜんイメージが付いていませんでした。そこから今にいたるきっかけをくれたのが、四国びとでも紹介されている友廣裕一さんです。

 友廣さんに始めて会ったとき、すごくきらきらしてるなって思って。友廣さんは、東日本大震災の被災地で「OCICA*」というアクセサリーを作っています。彼はアクセサリーを作りましたが、それは地元のお母さんたちが仕事を作りたいという想いから始まっています。なにか自分でもできないかと手を貸して、事業として形になったら手を引いていて、今は友廣さん自身はあまり関わってないと聞いています。そういう生き方は、すごい僕のやりたいことにしっくりくるなと思って、それでやり方が分かったというか…。思いはあるけど、形にできない人ってたくさんいます。そういう人たちの思いを形にしていくことが、僕らの仕事だと思っています。

*OCICA- 石巻市牡鹿半島の漁村に暮らすお母さん達による手仕事ブランド
http://www.ocica.jp

掲載日:2013年7月26日 取材者:S・Y
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