四国びと


いつかフランスへ里帰り

諏訪文久さん 有限会社スワモンショウ http://suwakou-ori.com/


 染めたいぐさを織り込んで作る花ござ。伝統的な素材と現代的な技術から生み出される花ござは、華やかな色合いとさわやかないぐさの香りを持ち、人を落ち着かせ、快適で豊かな空間と時間を提供しているように感じます。
 愛媛県今治市において、花ござの技術を代々受け継ぐとともに、デザインを行う紋匠師として活躍されている有限会社スワモンショウの諏訪文久さんにお話を伺いました。


-紋匠師という仕事を初めてお聞きしました。どんな仕事なんですか。 諏訪さん  一言で言うと織物デザイナーみたいな感じですね。織物には2種類あって、ジャカード織りで織り柄をつくるものとできあがった織物にプリントするものがあります。このジャカード織りの意匠図や紋紙を作るのが紋匠師の仕事です。
 織物は縦糸と横糸とで織りなされていますが、縦糸を上げるか下げるかしたところへ横糸が入っていきます。縦糸と横糸は密度が違うので、それを計算しながら織り方を設計していきます。また、縦にも色を使うし、横にも色を使うので、それが合わさったらどんな色になるかも考えます。

 こうして作った設計図が意匠図というものです。マス目1つが縦糸と横糸の交差点。これがずっと連続して柄になります。この柄を織るために、ジャカード織機を制御するパンチカードを紋紙といいます。




-織機の構造が分かっていないと描けないんですね。 諏訪さん  そうですね。同じ柄でも織り方を変えることで全然違うものが出来上がりますので、ここをどういう織り方にするかとか、織ったらこんな感じになるだろうなと想像しながら作る部分があります。
 たまにデザイナーさんが描いたデザイン画を持ち込まれることもありますが、織物にすると丸が丸に見えないなど、描かれたデザインどおりに表現できないので、ジャカード用に直したりします。

-実際にどんな商品を作られているんですか。 諏訪さん  うちでは主にタオルと花ござをやっています。
 タオル屋さんにはこういう複雑な柄の織物を納めています。今ではタオル屋さんもうちで使うようなデザインソフトを入れているので、ちょっと普通じゃない織物を作るのがうちの仕事です。タオル屋さんの場合は、自分たちでデザインを考えるのではなく問屋さんから「この柄を作って」という発注が多いので、簡単なものはタオル屋さんが自社で作られて、うちには複雑な柄の依頼をされるというような傾向になってきています。
 花ござのほうは、パンフレットを作って自社商品として売っているので、うちからデザインを提供したり、向こうから資料を持ってきて「こんな柄をデザインして」と依頼されたりします。どちらかというと、花ござの比重がちょっと大きくなっていますね。


-紋匠師になったきっかけを聞かせて下さい。  うちは祖父の代まで、京都の西陣で織屋をやっていました。祖父が愛媛県から招聘されて、織物技術の指導員として愛媛に来たのがそもそもの始まりです。指導員として県内を巡回していましたが、今治染織試験場の場長を経て、タオル屋さんを相手にした紋匠業を父親とともに始めました。
 私自身は子供の頃からそういう仕事を見ていて、自分が継ぐのかなという意識がなんとなくありました。大学を出てからアパレル関係に就職したんですが、せっかくの事業だし継がんのはもったいないなと思って戻ってきました。

-デザインを考えるアイデアはどこからでてくるんですか。 諏訪さん  絨毯やカーテンの柄だったり、他のファブリックや着物の柄だったり、あらゆるものからヒントを得たりアレンジしたりして、花ござ用にデザインを落とし込んでいきます。
 難しいのは、売るためには個性を出さないといけないんですけど、出し過ぎると売れないんです。一品一品売るんだったら構わないんですけど、量産して大量に売りたいとなると、あんまり個性が強くなりすぎるのはだめですね。
 展示するときの見せ柄として個性的なものは必要なんですけど、売れるのはなんてことない平凡な柄です。部屋にあるものなので、存在感がないもののほうが使いやすいんですかね。

-個性的な柄は海外の人には受けるかも知れませんね。 諏訪さん  10年くらい前、タオル屋さんに誘われてイタリアのミラノの商談会に花ござを出展しました。普通の花ござでしたけど、ヨーロッパの人たちは素晴らしいって言ってくれました。
 花ござは海外に受ける商材やなって思って帰ってきたんですけど、機械さえあれば人件費の安い中国でも織れてしまうじゃないですか。
 差別化するのに何かないかなって思っていたときに、いぐさと糸を織り込むことを思いついたんです。価格ありきではなくて、いいものを作ろう、国産のものを作ろう、うちのオリジナルを作ろうと。
 ところが、いぐさの織機は一本一本草を通す、糸の織機は連続した糸を通していくという違いがあって、システムが違うんです。そこで四国経済産業局から補助してもらって、いぐさと糸を織れる織機の研究開発を始めました。

-研究開発は順調でしたか。 諏訪さん  研究期間が5年あったんですけど、ずーっと研究研究、また研究で。研究開発用の補助で導入した織機なので、その間にいいものができたとしても売ったらいけないんですよね。お客様から「どこで手に入りますか」とお問い合わせを頂いて、「手に入りません」とお答えするのも変な話でした。
 そこで、研究期間が終わったときに織機を国から買い取りました。これでようやく売ることができるようになったので、やっと前を向いて進めます(笑) -買い取り後は前に向かって進んでいますか。 諏訪さん  いぐさと糸、さらに水引を織り込んだブラインドを作りました。すだれではなくブラインドと呼んだり、特殊な染め方の糸を使って材料にこだわったりして作ったところ、愛媛県から「21世紀えひめの伝統工芸大賞」を頂きました。また、それがきっかけで東京のデザイナーさんと新しい商品を企画して、それを展示会にも出展しました。

-水引を織り込まれたのは、何かきっかけがあったんですか。 諏訪さん  四国中央市の水引業者さんが蔵を整理していたら、金の水引で作った織物が出てきたという話があって。おせち料理の飾りとか、和菓子の下に敷くとかそういう使い方らしいんですけど、これを再現できませんかとうちに持って来られました。いい出会いだと感じたので、これを合体させたら面白いかなと思い、ちょっと使ってみようと思いました。
 それから、巻き上げ機の留め具には、菊間瓦を使っています。小さくて丸い瓦です。このスクリーンに合うような上等な巻き上げ機が無いので試行錯誤していたら、地元のものに行き着きました。



-いぐさの香りがいいし、見ていて落ち着きますね。 諏訪さん  ウグイスは鳴くし、桜は眼下に咲くし、この風土があるからこういう色彩感覚が育ち、新しい織物の発想が浮かぶのかも知れないですね。
 好きな織物を創って何か社会に貢献できているのかと思うこともありましたけど、うちが作ったものを見て、美しいなと感動して、心が癒されると思って下さる方がいれば貢献しているのかなと最近思えるようになってきました。



-今後の夢や目標について教えてください。 諏訪さん  世界へ飛び出して行きたいですね。まずはシンガポールなど東南アジア。最終はヨーロッパ、フランスへ。
 うちの先祖が、ジャカード織り発祥の地と言われているフランスのリヨンへ使節団の一員として訪問し、日本に初めてその技術を持って帰ってきたんです。
 あなたたちから頂いた技術が日本でこう育ちました。こんな織物を創って里帰りしましたよ。みたいな感じで商品を持って行きたいと思っています。




掲載日:2014年7月9日 取材者:A・T
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