旭洋鉄工株式会社は、1921年(大正10年)に高松市北浜の地で船舶用内燃機関の製造修理工場として創業。2021年(令和3年)の11月には、百年を迎える。現在は、高松市鹿角町で、長年の多様な産業機械製作で培った溶接・ 機械加工技術で産業機械・タンク・省力機械等の設計・製作を手掛ける老舗の鉄工所である。
今、同社は介護・福祉分野の製品開発に試行錯誤しながら取組んでいる。
2012年8月、知り合いの養護学校の先生から、卒業後社会に出ていく生徒達が、車いすで街のいろいろな所に自由に行き来できるようにタブレットが使える車いす用テーブルの製作依頼を受けた。当時は車いすに対する知見もなく依頼にも消極的だったが、さらに校長先生から「いろんな車いすのメーカーに頼んでも引き受けてくれない、是非とも頼む」ということもあり、引き受けてしまったという。
「乗降時に、テーブルが邪魔にならないように身体から離れること」「足下が見えないと段差等で転倒する恐れがあるので、走行時は必ず足元が見えること」「テーブルは学校の机等の邪魔にならない位置に移動できること」など、これまでに経験のない要求を社員一丸となってクリアした製品を納品できたものの、「重たい」「形が悪い」「ダサい」といった利用者からの課題も残った。
この経験から、もっと便利で喜んで使ってもらえる車いす用テーブルの開発を本格的にスタートした。安全性、耐久性、機能性はもとより、デザイン性にも目を向け、「やりたいことがすぐにできる。」をコンセプトに、次世代型車いす用テーブル「RightNow」を開発した。
商品化にあたっては、品質と価格低減の両立てを図るため、精密な部品成型のための金型をいくつも使っており、経済産業省のものづくり補助金を活用した。
その後も全国の特別支援学校の生徒の皆さんのモニタリングや要望をもとに、用途に合わせた位置設定と収納ができるテーブル、PCスタンドを使わず視線入力ができるテーブル、可動箇所が多いテーブル等を開発。「RightNow Select」としてラインナップを展開している。
テーブル開発を行う一方で、要望が多かったのが、片麻痺で片手が不自由な方でも利用できるショルダーバッグであった。松葉杖や車いす利用時でも邪魔にならず、片手で鞄の開閉ができて、よく使う財布、携帯電話、家の鍵、病院の診察券等の荷物を簡単に出し入れできる。ただ、鞄製作は本業である金属加工とはかけ離れたものであるため、企画設計、素材選びや縫製できる鞄メーカー探し等に奔走し、片手で使えるショルダーバッグ「RightNow Portable」を完成させた。
さらに、片手で書く・食べる・座るなどの日常生活をサポートする「介護用すべり止めシート」を商品化。もとはトラックの荷物を固定するすべり止めシートであったが、強度や汎用性に着目しタブレットの滑り止め用として使用していくなかで、利用者からの提案により単独商品として取り扱い始めた。「やりたいことがすぐにできる。」に加えて「あなたにあわせる。」も新たなコンセプトとして拡張、商品化することで、利用者からの喜びの声も多く届いている。
障がいを持つ人々の社会進出や社会参加が進む中、なるべく介助人の力を借りずに、一人でできることを増やしたいという要望が増加している。また、今の高齢化社会は、一方的な介護だけでなく、多様性を持つ人々が自分たちの思うように行動する社会とも捉えられる。
「一度使っていただければ良さが分かる。また、壊れやすく何度も買い換えるものは、結果的にお客様への負担になるため、耐久性があり長く使えるものを作る使命がある。」開発者である岡田和之部長は、ものづくりへのプライドを語る。
多様で柔軟な社会において可能性を広げる「RightNow」は、やりたいことや使う人にあわせてこれからも進化していく。
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※掲載の内容は、令和3年7月20日現在のものです。また、提供データ、画像を含みます。
平成24年度補正予算により創設。当初は、ものづくり中小企業・小規模事業者の試作開発、設備投資等に対しての補助であったが、中小企業・小規模事業者が行う試作品・新製品、新サービス開発、設備投資等の支援へと対象を拡大。
令和元年度補正予算より「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」として、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援している。