愛媛製紙は、1953年創業の製紙会社で、段ボール原紙と”エルモアブランド”の家庭紙等の原紙を主力製品として生産している。特に段ボール原紙は東南アジア等にも輸出され、安定した供給と品質から高い評価と知名度を得ている。
同社では、地域資源であるイヨカンを使って、将来に向けた事業領域の拡大に挑戦している。
セルロースナノファイバー(以下、CNF)は、植物繊維をナノスケールまでほぐした極微の天然由来繊維で、鉄の約5分の1の軽さで約5倍の強度を持つ、カーボンニュートラルな高機能素材として注目を浴びている。紙の原料であるパルプから製造可能で、多くの製紙会社が競って実用化に向けた研究開発に取り組んでいる。
同社も2015年からパルプや古紙を原料にしたCNFの開発に取り組むも、大手製紙メーカーにはとても太刀打ちできないと研究に限界を感じ、他社とは異なる道を模索していた。
着目したのは、柑橘(主にイヨカン)の果皮。愛媛県は柑橘の栽培だけでなく、ジュースの生産も盛んで、その生産工程から出る柑橘の果皮が年間約5,800トン廃棄されているという。果皮には抗酸化作用や美肌効果等有効成分が多く含まれており、木質系CNFとの明確な違いや地域性を出すことができると考え開発をスタートした。
2018年には、愛媛県からの共同研究の呼び掛けに応じるとともに、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)の採択を受け、研究機関や大学、化粧品メーカーと連携して、化粧品原料を照準にした柑橘CNFとして地域課題の解決にも繋がる研究に発展した。
パルプと異なり果皮は生ものであり、種やヘタ等の混入、安全性の評価、原料の安定調達、製造工程の見直し等開発課題は山積で苦戦したが、3年間の共同研究を経て、薬品処理や添加物を使わずCNFまで解繊した「MaCSIE」を完成させた。
CNFの持つ乳化機能や増粘機能に加え柑橘由来の肌への有効成分を含んでいることで、化粧品メーカーからも高評価を得ており、自然派志向の消費者ニーズに向けて、既存の化学品原料からの置き換え等、化粧品および食品の原料として利用拡大が期待されている。
既に、共同研究先の化粧品メーカーや愛媛県内の他の化粧品メーカーから保湿性等を活かした商品が販売されており、「今後も、愛媛県や柑橘の特徴を活かした、ストーリー性のある商品づくりを通じて、イヨカンの価値を高めて再興に繋げたい。」と井川社長は思いを語る。
CNF開発の他にも、カーボンニュートラルに向け積極的に取り組んでおり、木質バイオマス・RPF混焼ボイラーの導入、CO2削減によるJ-クレジット創出、地域の廃棄物の有効活用等、2021年度は2013年度比で30パーセント以上のCO2削減を見込んでいる。
「弊社は、もともと、古紙を回収して販売するところから始まっており、資源を有効利用するというところは、創業の精神にも通ずるところだと思っている。また、SDGsへの取り組みなど、お客様や社会が求めるものの“こたえ”を見つける努力をこれからも続けていきたい。」
限られた資源を有効活用する創業時からの変わらぬ思いで、時代が必要とする価値の創出にチャレンジしている。
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※掲載の内容は、令和3年9月21日現在のものです。また、提供データ、画像を含みます。
戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)とは、我が国製造業の国際競争力の強化と新たな事業の創出のために、高度なモノ作り基盤技術を担う中小企業に対して、法的措置をはじめ、研究開発、金融など、総合的に支援するもの。
中小企業・小規模事業者が大学、公設試等の研究機関等と連携して行う、製品化につながる可能性の高い研究開発、試作品開発等及び販路開拓への取組が対象である。