「ここにちょっとした手すりがあれば」「トイレ内での転倒事故を防げないか」「坂道でもガタつかず安定した車椅子用スロープがあれば」―。そんな福祉現場の「あとちょっと」の声に応える製品を作っているのが「株式会社シコク」。
1975年に香川県大川郡寒川町(現さぬき市寒川町)にて、建築用金物の製造工場として創業し、その後津田町(現さぬき市津田町)への移転を経て、2000年頃から福祉用具の製作にシフト。2013年には、独自ブランド「微笑(ほほえみ)」を立ち上げ、老舗大手メーカーが数多く存在する業界に、後発メーカーとして本格参入した。
強みは、建築金物で培った金属加工技術を活かした、企画から設計、溶接、曲げ加工までを社内で一貫生産する体制である。従業員約80名と業界内では小規模な後発メーカーながら、豊富なラインナップと、小回りの利く商品展開で着実に取引先を増やしている。
同社は、福祉業界に参入当初、OEMで汎用品を生産。多様な利用者の声に応えるためには、自社のクリエイティビティを活用した提案が大切だと考え、加工技術や知財戦略のもと提案型のOEM生産を展開。当時から、「大切なのはつくることではなくて、『使ってもらう』こと」を主眼に開発を進め、現在、31件の特許、8件の意匠等の知的財産権を有している。
「自分たちの思いだけで進めてしまっては、一方通行になってしまう。実際に利用する人は、動作も三者三様。製品を使う人の声こそが重要で、製品づくりのヒントになっています」と古瀬社長は言う。
大切にしているのはエンドユーザーだけではない。主に介護保険レンタル品として扱わる同社の製品は、介護施設やレンタル事業者、メンテナンス業者など関わる多くの人々のニーズに応えた製品となっている。例えば、見た目は同じ手すりでも、特許技術を組み込むと、メンテナンスが容易になる。設置からレンタル後のメンテナンスまで多方面から練られた心遣いが、新たなアイデアの根源だ。
トイレ内の事故として一番多いのが、入口から座るまでの動作中に起きる便座前での転倒。これを防ぐため、入口からのアプローチを補うよう高い位置にU字の手すりを1つ加えたのが「SA手すり」で、トイレ内での移動や、着脱衣の介助の補助を可能にした。「ちょっと」が加わることで、行動が変わり安全性が高まる。現在では業界内でもこのタイプの手すりが主流になりつつある。
車いす利用者にとって欠かせない車いす用スロープ。段差、狭い間口、真っすぐ出入りできないなど玄関の出入り時の課題は多い。鉄道玩具のレールから発想を得て作られた「LスロープFK」は、L字カーブなど方向を変えられるスロープだ。今まで真っ直ぐしかなかったものに対して、「ちょっと」カーブしたものをユニットで付けることで、設置費用を抑えながら、微妙な角度や段差へ対応できるようにした。
また、「坂道ではガタついてしまう」という声に応えた「段ない・ス FK」は、スロープ下端部が細かく分かれることで、坂道の斜面に沿って設置でき、利用者の安心感へとつながっている。
「微笑」は「使う人、つくる人、売る人、関わる全ての人をにこやかにしたい」という想いをこめて名付けた。ブランド名の通り、出荷からレンタル後までを想定した細やかな心遣いと、少数派であっても現場からの声に耳を傾ける姿勢が、数々の独自の製品を生み出している。
「展示会に新しい製品を出せないのなら社長を辞める覚悟で毎年挑んでいる」と自らに課す古瀬社長。そして、「開発スタッフには、プレッシャーだけどもね」と気遣いながらも、目指すは「『あとちょっと』何かあったらどうにか解決できるんじゃないか?」と問い続け形にしていくこと。「シコクに言ったら必ず解決してくれるだろう」「新しいものを作ってくれるだろう」といわれる会社にしていきたいという。
新たな福祉用品が生まれ、利用者をはじめ関わる全ての人がにこやかになっていくこと、さらに、それらの製品がスタンダードとなり、業界の発展につながっていくことを期待したい。
下の画像をクリック(タップ)すると拡大します。
※掲載の内容は、令和5年5月19日現在のものです。また、提供データ、画像を含みます。
「知的財産」とは、発明、考案、意匠、著作物など、人間の創造的活動によって生み出されるものや、商標、商号など、事業活動に有用な情報のことを指しています。「知的財産権制度」は、これら幅広い知的創造活動によって生み出されたものを、創作した人の財産として一定期間保護するための制度です。