高機能繊維ロープ製造で国内有数のシェアを誇る香川県高松市の高木綱業は、従業員数約80名。半数ほどが製造に従事し、研究開発の専任職員は2名、会社規模は中小規模にあたる。経済産業省の成長型中小企業等研究開発支援事業(以下Go-Tech事業)を活用して、公益財団法人かがわ産業支援財団をはじめ、支援機関の香川県産業技術センターや各企業と開発チームを結成。社外組織や学術機関と連携しリソースを提供しあうことで、イノベーションを起こす手法「オープンイノベーション」を採用し、高機能繊維ロープの開発に取り組む。
繊維ロープといえば、どんなものが思い浮かぶだろうか?
身近な製品では、アウトドア用品や犬のリードなどがあげられるが、特に産業の現場では、必要不可欠な存在だ。軽量かつ柔軟なため扱いやすいという繊維ロープの特性から、荷物の固定や船舶の係留など、引っ張る、結ぶ、吊るすなど様々な用途に用いられている。
高木綱業は、1954年創業以来、四国で盛んな海事産業を背景に繊維ロープを中心に企画開発、製造販売を展開。主力製品群「高機能繊維ロープ」は、繊維ロープの強度を高め、さらに用途に応じて難燃性や帯電防止性などの各性能を強化したロープだ。同社では、芯材・被覆材の素材やロープの構造・形態を、用途に応じ組み合わせることで、400パターン超の繊維ロープを作っている。
これまで採択されたサポイン事業(Go-Tech事業の前身)、Go-Tech事業では、海上風力発電や送電線工事などハードな環境下にも耐えうる高機能繊維ロープの開発に取り組む。
海上風力発電をはじめとした海洋分野では、金属製ワイヤーが用いられている点に着目。防弾材料にも使われる超高分子量ポリエチレンを主材にした高強度・高耐性な複合繊維ロープを開発し、従来の金属製ワイヤーに置き換えることで新たな市場を狙う。送電線の張り替え工事に使用する繊維ロープの開発では、送電線を支える繊維ロープをより高強度化、長寿命化することを目指す。送電線の老朽化による全国規模での張り替え工事計画に併せ、業界初となる高強度絶縁ロープを、1本まるごと性能検査可能にした点検技術も開発。2024年にリリースした。
Go-Tech事業には、事業管理機関として公益財団法人かがわ産業支援財団が、共に研究開発を行う実施機関として香川県産業技術センターが参加。その他にも、国立研究開発法人産業技術総合研究所、ゼネコン、総合商社などがアドバイザーとして参加する。
事務的な手続きや書類作成、そして全体のまとめ役を担うのが、かがわ産業支援財団。産業技術センターがテスト方法や製造方法の学術的根拠の補強をし、アドバイザーは、マーケットの情報提供やテスト製品の使用感のフィードバック、試験場所の提供を行う。
「大がかりな開発は、テスト環境も大規模になります。連携することで、例えばテスト用の大型プールを作らずとも、プロジェクト参加者の既存環境を活用できる。製品開発においても、ロープのちぎれた部分を顕微鏡で観察し成分解析した上で、学術的知見に基づいたコーティング材の提案をしてもらえます。これは一例ですが、研究機関が参加することで、より的確で再現性の高いテストを実施できます」そう話すのは、代表取締役社長 高木敏光氏。高木氏が2013年代表に就任してから、新商品の開発、特に高機能繊維ロープは力を入れている分野だ。「Go-Tech事業を活用したことで、自社だけではできなかった大がかりかつ、確実性の高い製品開発が可能になりました」と高木代表は語る。
同社では、Go-Tech事業以外にも、他社との共同開発の実績がすでに20件ほどある。取引先のニーズに応えようとする中で、共同開発に発展することが多いそうだ。Go-Tech事業も、当初は一般的な繊維ロープを使いやすくできないか、という声がはじまりである。共同開発に限らず、顧客に応じたオリジナル製品を作ることも多いが、それはロープ業界では少数派の業態だ。
日本国内外いずれも繊維ロープ市場は成熟しており、同じ素材・構造での、価格競争は現実的ではない。会社の強みである「挑戦する体質」を明確化し「今まで無かった商品を一つでも多く世に出し、新たなマーケットを創出する」ことを成長の核に据えたのは、そんな市場背景もある。
「ただ作って売っているだけでは、とっくに潰れていると思います。顧客ニーズに耳を傾け、常に挑戦し、新しい製品・サービスを生み出していく。特殊なロープ製造や、ロープの耐久性の相談など、繊維ロープで困ったら『高木綱業』の社名が挙がる。そんな会社にしていきたいです」と高木代表が目指す先には業界内での独自の立ち位置の確立がある。
製品開発にとどまらず、開発した性能検査を軸に、サービタイゼーションにも取り組み始めた高木綱業。1本の糸を撚り(より)合わせ、生み出される何百パターンもの繊維ロープは、直接目に触れることは少ないが、私たちの生活インフラを支えてくれている。
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※掲載の内容は、令和7年1月31日現在のものです。また、提供データ、画像を含みます。
Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)とは、中小企業等が大学・公設試等の研究機関等と連携して行う、事業化につながる可能性の高い研究開発、試作品開発及び販路開拓への取組を最大3年間支援する事業です。※商業・サービス競争力強化連携支援事業(サビサポ事業)、戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)については、令和4年度より「Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)」に統合されることとなりました。