第30回

令和7年4月4日 発表

高松帝酸株式会社

グローバルなエネルギー動向と地域の産業をつなぐ、水素キャリアの開発


高松帝酸 社屋 写真
高松帝酸 工場

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、次世代エネルギーとして世界的に注目されている「水素」。二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーとして、水素産業を育成する動きが各国で加速している。エネルギー資源に乏しい我が国は、水素が様々な資源から生み出せる点からも、いち早く着目。2017年には世界初の水素の国家戦略「水素基本戦略」を選定し、2050年までに水素を主なエネルギー源とする計画が進められている。   
そんな水素の量産化を目指し技術開発に取り組むのが、香川県高松市の高松帝酸株式会社。一連の取り組みを「未来を変えるカエルッティプロジェクト」と名付け2030年の供給化を目指す。同社は、1950年に創業した高松酸素株式会社を母体に1972年に設立。設立以来一貫して、産業・医療ガスの製造販売を手掛けており、現在はワンストップソリューションを目指して、ガス供給設備の設計施工や関連機器、資材まで幅広く提供している。水素ガス製造に取り組むのは初めての試みだ。

画期的な発明を、社会に浸透させる実装実験を担う

代表取締役社長 太田 貴也 氏 写真
代表取締役社長 太田 貴也 氏

水素は気体状態では分子が小さく軽いため漏洩しやすく、運搬効率も悪く、さらにマイナス253度以下でないと液化しないことから、貯蔵や輸送に課題がある。そこで効率的に貯蔵し輸送できるよう「水素キャリア」と呼ばれる水素化合物に変換する技術開発が進められている。

高松帝酸と国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)が、経済産業省の成長型中小企業等研究開発支援事業(以下Go-Tech事業)を活用して開発を行っているのが「ギ酸を水素キャリアとした革新的高圧水素及び液化炭酸ガス連続供給技術の開発」。ギ酸は、常温時に液体であり比較的安全性の高い特徴から、扱いやすい水素キャリアである。そのギ酸に、産総研が独自に開発した触媒を加え、温水で60度程に温めるだけで、非常に高圧の水素と炭酸ガスのみが発生する。画期的な発明は、商用化されることで私たちの暮らしの一部となりサプライチェーンが実現される。産総研が開発した高圧水素を発生させる技術を商用化させるべく実装実験を担うのが高松帝酸だ。

地元の産業に貢献する中で生まれた水素添加装置

水素ステーション用のガスボンベ
水素ステーション用のガスボンベ

「本当にできるのですか?」筑波に拠点を置く産総研へのコンタクト当初、高圧水素を扱えるのか先方は半信半疑だったと太田貴也代表取締役社長は振り返る。それもそのはず、産総研の触媒を使用すると、発生した水素は最終的に157メガパスカルの超高圧力にまで達する。日本の平地の基準となる気圧は約1013ヘクトパスカル、その約1500倍もの圧力となる超高圧力の水素を扱えるのは事業化された大規模プラントが一般的だ。

なぜ、高松帝酸がそれほどの高圧水素を扱えたのか?
それは「地元に貢献したい」という想いに起因する。はじまりは2017年、燃料電池自動車(FCV)に水素を供給する移動式水素ステーションの運用を開始したこと。従来取り扱っていた15メガパスカルの高圧ガスボンベの5倍以上の82メガパスカルを扱うことになった。「扱ったことのない圧力は、メンテナンスも未知の現象が起きる。この時の経験がギ酸の試みに活かされている」と太田社長。
そして同時期から香川大学が発明・生産する自然界にわずかにしか存在しない糖「希少糖」のうち量産が困難だった「アリトールとD-タリトール」の量産装置の開発に携わるようになる。当時、希少糖の生産量は少なく、水素を添加反応させることで大量生産できることが分かっていたが、学生や教員が水素を扱えず進展がない状況だった。水素ステーション運営の知見をいかし、自社であればできるだろう、と希少糖製造装置を製作した。そして参加したオンラインセミナーで、産総研の触媒を知り、この時に製作した200気圧を扱う高圧水素添加装置がそのまま活用できる、と産総研にコンタクトを取る冒頭へつながる。
水素ステーションも希少糖装置も「地元を豊かにしたい」という想いが根底にある。特に希少糖は「地元で生まれた研究開発を、地域の中で生産体制を整え産業にしていくことで、貢献したい」と企業収益に直結するわけではないが取り組みをスタートした。

「さぬき水素」実現にむけて

ギ酸から水素を発生させる様子
ギ酸から水素を発生させる様子

現在、開発は量産化に向けて水素と炭酸ガスの混合ガスを連続発生させ、その稼働時間を100時間まで伸ばす段階。さらに、2025年中には混合ガスを、水素と炭酸ガスに分ける新装置も開発予定だ。特に工業用二酸化炭素は国内の生産量が足りておらず、海外から輸入している国内の現状を鑑み、二酸化炭素の有効活用が重要だと太田社長は力をこめる。また、水素製造の出口である「使う」ことの普及にも力を入れ始めた。2025年1月に、水素調理用のコンロを製造・販売する東京のベンチャー企業と提携し水素ガスのコンロの販売をスタート。水素で食材を焼き上げることで水分を含み、中はしっとり、外側はパリッとした食感を楽しめる。   
「2030年までに香川県内初となる「さぬき水素」製造を実現させることで、香川にもこんな高い技術があるのだということを伝えていきたい」と太田社長。グローバルなエネルギー動向と、地域社会の産業をつなぐ高松帝酸の取り組みは、同社の開発力を基に更なる広がりを見せている。

下の画像をクリック(タップ)すると拡大します。

高松帝酸株式会社2 高松帝酸株式会社3 高松帝酸株式会社4 高松帝酸株式会社5 高松帝酸株式会社6 高松帝酸株式会社7 高松帝酸株式会社8 高松帝酸株式会社社9 高松帝酸株式会社10 高松帝酸株式会社11 高松帝酸株式会社12 高松帝酸株式会社13 高松帝酸株式会社14 高松帝酸株式会社15 高松帝酸株式会社16 高松帝酸株式会社17

Date
企業データ

名称
高松帝酸株式会社
所在地
香川県高松市
事業内容
高圧ガス製造販売
政策の活用等
  • 成長型中小企業等研究開発支援事業(旧サポイン)
  • がんばる中小企業・小規模事業者300社(2014年度)
ウェブサイト
高松帝酸株式会社別ウィンドウで開く
お問い合わせ
電話 087-822-5222

※掲載の内容は、令和7年4月4日現在のものです。また、提供データ、画像を含みます。

Point
ワンポイント解説

成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)

Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)とは、中小企業等が大学・公設試等の研究機関等と連携して行う、事業化につながる可能性の高い研究開発、試作品開発及び販路開拓への取組を最大3年間支援する事業です。※商業・サービス競争力強化連携支援事業(サビサポ事業)、戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)については、令和4年度より「Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)」に統合されることとなりました。

関連サイト

Go-Techナビ(中小企業庁ウェブサイト)別ウィンドウで開く