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カモメのように自由に行き来できる社会の実現を!

小野 正人さん 株式会社かもめや




香川県高松市のネクスト香川に、ドローンで離島が抱える物流課題の解決に挑戦するスタートアップ企業、「株式会社かもめや」があります。本土と離島を繋ぐハイブリッド型のシステム実現に向けて、歩みを進める株式会社かもめや 代表取締役 小野 正人さんにお話を伺いました。

―「かもめや」で目指していることを教えてください。

小野さん

ひと言でいうと、離島や山間部などの過疎地でも24時間、365日どこに住んでいても、物が届く日常生活が送れる社会を目指しています。

―「かもめや」を創業する前は、どのようなことをされていたのですか?

小野さん

ITのエンジニアをしていました。インターネット・プロバイダーや携帯電話の会社で、システムエンジニア、通信エンジニアと呼ばれる仕事です。

  

また、学生時代から離島巡りが好きで、ライフワークにしていました。日本にある有人島約420島のうち、これまでに260島ぐらい巡りました。いつかは島にかかわる仕事がしたいとずっと思っていました。

―離島巡りはいつ頃から始めたのですか。

小野さん

私はもともと香川県の出身で、子供の頃から学校や地域で離島に行くことがあり、離島に馴染みがありました。その延長のような感覚で、仕事のかたわら離島や僻地巡りをするようになりました。離島には、固有の文化や風習、既に忘れてしまった昔ながらの風景や生活が残っていて、そんな島の情景に触れたり考察したりするのが楽しいです。

   

―転職のきっかけは何だったのですか?

小野さん

瀬戸内国際芸術祭です。島巡りをしているうちに、芸術祭のボランティアサポーター「こえび隊」を募集するポスターをたまたま目にしたんです。おもしろそうだなって興味を持ちました。その当時はサラリーマンをしていたので、毎週土日だけボランティアとして活動を始めました。2010年の芸術祭終了後、「こえび隊」のNPO法人化にあわせ事務局に転職しました。その時の縁で2013年には、お付き合いのあった男木島の方の空き家に移住しました。離島で家を借りることはとても難しいんですよ。

↑こえび隊活動時の小野社長

↑男木島で知人から借りた空き屋

―男木島での生活はいかがでしたか?

小野さん

とりあえず、1年くらいは男木島でのんびり好きなことをやろうと思っていました。生活面での不安も特にありませんでした。クラウドソーシングで仕事をもらえていて、比較的安定した収入も得られましたから。楽しく島暮らしをしていました。

↑島内のお祭りへも積極的に参加する小野社長

―「かもめや」創業の経緯を教えてください。

小野さん

男木島で暮らしているうちに島の交流スペースを作りたくなって、2014年6月にかもめやを創業しました。当時はドローンの仕事ではなかったんですが、自宅として借りた空き家の一部をDIYで改造し、休憩所っぽくして飲食物も出していました。ほかにも、音響の仕事やイベントスタッフ、ドローンショップの店長、海上タクシーのお手伝いなんかもしましたね。

↑空き屋をDIYで改造し休憩所へ

   

―では、ドローンの事業を始めようと思ったきっかけは?

小野さん

島に住んでいた2年の間に、知り合いだったおじいさんやおばあさんがある日を境に姿を見せなくなることがありました。事情を聞いてみたところ、病院や施設がないため高松へ引っ越してしまったと言います。

   

島には高齢者が多く、そうした人は通院し薬を受け取ることにも苦労していたんです。定期船が1日に何本も走っているわけではないし、いつなくなるのかもわかりません。また、郵便配達も高齢者で支えられており、島民の減少により、物流ができなくなるといった問題も発生するかもしれません。

   

今、多くの島で同じような問題があり、安心して暮らしていける良い方法は何かないのかなと考えるようになっていきました。

↑豊玉姫神社から撮った男木島の風景

―ドローン事業のヒントは何かありましたか?

小野さん

2014年に世界最大級のインターネット通販会社がドローンを使って荷物を運ぶ実験をした、というのをニュースで見たんです。これをヒントに、ドローンで島と島を空で繋いだらどうだろう、海でつないだらどうだろうと。薬や日用品ならドローンで人手や時間を気にせず運べ、島が抱える課題解決に繋がるのではないか。その時の想いが、ホワイトボードに書いたこの落書きです。



―この落書きを実現しようとされたわけですね。

小野さん    

そうです。ただ、ヒントをもらった通販会社は、空飛ぶドローンを使い配達先に運びますが、私は島国にあったモデルを採用したいと考え、陸・海・空のすべてを繋ぐハイブリッド型のモデルを検討しました。また、単にドローンの機体を作ったり、ドローンによる物資の輸送そのものではなく、陸・海・空のドローンを組み合わせたモノを運ぶ仕組みづくりをやろうと考えたんです。

―仕組みづくりとは、具体的にどのようなことですか?

小野さん

ドローンを陸・海・空の最適なルートで繋ぎあわせるシステムを作ることです。そのためには人手を介さず完全自動でドローンを長距離、安定して運行させる必要があります。この仕組みは全て自社で企画し、そのコア技術は国内のみならず国外にも特許出願を行っています。この管制・管理システムを多くの企業に使っていただくことで、離島における様々なサービスが生み出され、利便性が大きく向上することになればと考えています。これが、かもめやが目指すビジネスなんです。

↑運行管理コンソールでドローンの運行をチェックする小野社長

―こうした物流システムが実現すると、島の暮らしは変わりますか?

小野さん

 このシステムが運用されたら、離島に24時間のコンビニができるのと同じぐらい便利になると思います。住んでいる場所にとらわれず、都市部に住む方たちと同じサービスを受けることができます。高齢者が薬や日用品の受け取りに苦労しなくてよくなり、物流問題を理由に住みたい場所を諦めなくてよくなるのです。

↑Kamome Air(写真上)、Donbura.co(写真左)、Smart.Onba(写真右)

  

―これまでに苦労されたことなどはありますか?

小野さん

最初に、男木島と高松の間でドローンを飛ばす実証実験を行ったのが2015年ですが、その時は、今ほどドローンが知られてなく、資金もありませんでした。興味を持っていただいたドローンメーカーからは、材料費の100万円だけとりあえず用意するようにと言われましたが、銀行も補助金もだめで、クラウドファンディングでなんとか調達しました。その後も、地元企業の知り合いの社長さんからの紹介で、様々な会社の社長さんやエンジェル投資家の元もたくさん回ってきました。お陰様で必要な開発資金の確保は何とかなっています。

   

―その他にご苦労はありますか。

小野さん

従業員の確保には未だに苦労をしています。現在、当社は私を含め3人が働いていますが、人は足りていません。スタートアップの立ち上がり段階は、開発費が先行する一方で、収益は殆ど生まない状況が続くので、その辺の理解が得られず、定着しませんでした。ストックオプションなど、色々と工夫もしてきましたが、現在もなお、従業員の募集は続いている状況です。

   

―現在の課題を教えてください。

小野さん

技術的なものは確立し、その技術に自信もあるんですが、対外的には、ほとんど知られていません。これからは、この技術を知ってもらうための営業が重要だと考えています。各地の自治体などが行う離島振興のプロジェクトに参加し、ドローンの実証実験を行うのもその一環です。2019年には長崎県五島市、2020年には、香川県三豊市の粟島で実施されたプロジェクトに参加しました。こうしたプロジェクトへの参加を通じて評価をいただき、いろんなところからお声掛けをいただくようになりました。

↑2020年7月、三豊市詫間町-粟島での実証実験

   

―最後に、今後の展望・展開をお聞かせください。

小野さん

日本にある全ての有人離島に物資を届ける仕組みを作りあげることです。その後、世界の離島にも広げていきたいと考えています。

   

実は、日本よりもフィリピンやインドネシアのほうが、有人離島が多いんです。これらの離島は電気も通信も整っていないし、もちろん医療も行き届いていない。こういうところにもこの仕組みを広げて、生活を豊かにできればなと思っています。

   

また、海外を始め、最近では日本国内でも、人を運ぶドローンが開発されていて実用化に向けて動いています。人も好きなときに行ったり来たりできるようになって、住む場所にとらわれない、そんな世界が来るんじゃないかと思います。将来的には、人の移動も含め、自由に街と離島を往来できる日常の実現をお手伝いできればと考えています。



掲載日:2021年1月15日 取材者:S・U