四国経済産業局

インタビュー

「事業継続力強化計画」 策定への道しるべ!
松田哲也 税理士事務所のみなさん


松田哲也 税理士事務所
所長 松田 哲也 様

【ポイント1】震災被災地を見て回った経験からの危機意識
【ポイント2】事業継続力強化計画の社内への浸透
【ポイント3】本業にとどまらない地域社会への貢献

会社のご紹介

松田哲也 税理士事務所は香川県高松市に拠点を置く税理士事務所で、「信頼と誇り、源泉は人」という理念のもと、経営者の良きパートナーとして、税務書類の作成や経営に関する指導・相談など、企業のライフステージに応じた様々な課題に対し、真摯に寄り添い業務を行われています。
また、地域への貢献を最大の目標として掲げられており、松田さん自身が東日本大震災の被災地を見て回った経験から、防災に関する様々なイベントを開催するなど、地域に根差した取り組みも精力的に行われているとのことでお話を伺ってきました。

事業継続に向けた歩み

──松田さんは東日本大震災の被災地を見て回った経験がおありとのことですが

東日本大震災の発生からちょうど一年後に被災地を見て回ったんですね。陸前高田市を中心に回り多くの被災者と対話させてもらって、いろいろと考えさせられました。特にあるお年寄りから「欲しいものは何もねぇ。明日することがねぇ。これほどつらいことはねぇ。避難所生活ではオラたちも役に立ってたんだ」(仮設住宅入居後)の言葉をいただいたときは、どのような支援をすれば元気になってもらえるのか、早く復興するのかを同行者とたくさん考えましたね。結果、仲間と一緒に被災者自らが復興にかかわる自立型復興支援として現地に讃岐うどん店を提供し被災者自らがそこで働き美味しい讃岐うどんを同じ経験をした被災者に提供することに繋がりました。

また、どこが生死の分かれ目になったのか、ということも現地の方から説明していただいて、ほんと多くのことを考えさせられるきっかけとなりました。帰りの道中もずっと考え、高松に戻ってすぐに 「これはBCPを作らないといけない」 という気持ちが芽生えたんですね。さっそく計画を作り始めた訳ですが、忙しさのあまり作成途中で止まってしまってたんです。
時間が経った昨年、 BCP 関連のセミナーで東日本大震災について話した時に当時の気持ちを思い出して、改めて事業継続力強化計画の作成に取り組むことにしたのです。これは今後の課題で、大規模災害の場合、社員も経験がないことなのでどこまで行動を起こせるか分かりませんが、災害発生から一日は事業継続力強化計画を見ないでも行動できるよう、事務所内への事業継続力強化計画の一層の浸透を図りたいと思っています。

──事業継続力強化計画への社内の浸透は確かに難しいですよね

今回の事業継続力強化計画は私が作成しましたが、社員に浸透しなければ、非常時に社員は行動することができず、作成した意味がありません。
社員への浸透については、定期的な訓練や計画の読み合わせなどもあるかと思いますが、最も効果的なのは社員たちに計画の見直しを行ってもらうことです。社員自らで、若手・中堅・シニアといった各世代の意見を吸い上げ、計画の見直しに取り組んでもらう。その内容は地域の集まりの時などに、地域の方々にお伝えする。ただ、分厚い資料を渡すと読んでいただくのが大変なので、A4用紙裏表くらいに簡単にまとめたものをお配りする。こういう取り組みができると良いんじゃないかと思います。

地域社会の発展に向けて

松田哲也さんの写真

──事務所のウェブサイトを拝見しましたが、地域貢献にも力を入れていらっしゃるそうですね

社員だけで守ればいいのかというとそうじゃなくて、地域住民も守ることが、我々中小企業の使命だと考えています。これは東日本大震災の復興支援の経験からそう考えるようになって、事業継続力強化計画は自社だけでなく、子どもたちからお年寄りまで地域住民を巻き込んで、みんなで楽しくやったらいいなと思っています。防災用品とかを集めるのも、キャンプに行くような感覚で、楽しみながら集めたらいいと思います。

地域を巻き込んだ取り組みとして、地域の方々をお招きして、訓練も兼ねた非常食の試食会を行いました。人によっては、食品メーカーさんや小売業者さんにお願いして、「適当に何食分か準備して」という風にすることもあるかと思うんですが、どうせなら試食会を開いて、「災害時に本当に食べたくなるのはどんなもんやろう」と考えてみました。これも東日本大震災でうどん店を提供した感じですかね。
実際に非常食を召し上がっていただいた後にアンケートを実施しまして、「美味しかったものはどれですか」「非常時の食べたくなるものはどれですか」といった項目で点数をつけてもらったんですよ。そしたらカレーが人気でして。ご年配の方々は意外と濃い味のものを好まれるんですね。こういったアンケートの結果を踏まえ、ご年配の方々が食べやすいものを重点的に備蓄するようにしています。

また、アンケートでは「非常食などの準備も、一人ではなかなかやる気にならなかったけど、試食会に参加したらやっぱりやらないといけないなという気持ちになったので、家に帰ってすぐ、昔買った非常食を確認して、賞味期限が切れてることに気づけた」というような感想をいただけました。
他にも「コスモス祭り」という地域のお祭りも開催していますが、そちらも社員教育の一環に位置付けており、このように一つの目的に向けて社員たちが一体となって取り組むことは、社員一人一人の人間力の向上につながり、災害などの非常時にもコミュニケーションを取り合い、互いに助け合うことにつながるんじゃなかと思います。

事務所の写真

──事務所での事業継続力強化計画の取り組みが、地域の方々の意識変革にもつながったんですね

ただ何より嬉しかったのは、こういったイベントを通じて、地域の方々に社員の顔を覚えてもらえ、「松田事務所に避難すれば、メンタル的にも落ち着けると思う」だったり、「いざとなったら避難するけん、後は頼むで」というお言葉をいただけたこと。これには地域の方々からの信頼を感じ、本当に嬉しかったですね。職員たちもこういうお言葉をいただけることで、人として成長していってくれてるんじゃないかなと思います。

当事務所は「信頼と誇り、源泉は人」という企業理念を掲げていて、地域の方々や顧問先との信頼関係を構築するには、社員一人一人の人間力の向上が必要です。AI・ITといった技術はどんどん進化していきますけど、付加価値を生むのは根本的にはやはり人間力、これは欠かせないと思います。
人間力がある社員が集っているから、地域の方々はここに集まると安心できる。そして、その社員が作った事業継続力強化計画があるから、なおさらに「松田事務所に避難すれば大丈夫」と思ってもらえる。こういうことが中小企業の付加価値なんじゃないかなと思います。

中小企業の仕事には「お金になる仕事」と「お金にならない仕事」の2つがあると思っていて、ここ30年くらい中小企業は「お金になる仕事」しかやってこなかったんですね。もちろん、社員の給料を払い、利益を出して納税もしなければいけないので、お金になる仕事も当然必要です。でも、お金にならない仕事も大事にしないといけないと思っています。結局、回りまわって自分に返ってきますからね。お金にならない仕事かもしれないですけど、これからも地域を盛り上げていけたらなと思います。
(2025年1月7日掲載)

松田哲也 税理士事務所

〒761-0443 香川県高松市川島東町936番地9   


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