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「水」からみる環境教育

八束典子さん 四国EPO(四国環境パートナーシップオフィス) http://4epo.jp

八束典子さん
 今、四国EPO(しこく・えぽ)では、環境教育に活用してもらうために、「四国の水」をテーマとする「環境読本」を作成中です。なぜ「環境教育」に着目したのか、なぜ「水」をテーマにとりあげたのか。今回は、このことを中心に四国EPOのマネージャー、八束典子さんにお話をうかがいました。
環境読本 -さて、読者の皆さんは、「四国EPO」ってなんだろうと、きっと思っています。ちょっと不思議な名前ですよね。 八束さん ―そうですか?(笑)。EPOは「環境パートナーシップオフィス(Environmental Partnership Office)」の略で、四国EPOは、環境省が環境についての情報、相談、活動のサポートの拠点として全国に7カ所設置しているうちの一つです。高松市の中央通り沿いにオフィスがあります。皆さんに私たちの活動を知ってもらって活用してもらいたいと思っています。 ―八束さんは、これまでどのようなことをされてきたのですか? 八束さん ―松山市のとなりにある松前町(まさきちょう)の出身なのですが、民間企業や団体で環境に関係した仕事に携わった後、愛媛県地球温暖化防止活動推進センターに勤務し、地球温暖化防止のイベントなど普及啓発活動を行っていました。その後、2010年4月から四国EPOで仕事をしています。 ―仕事以外では、どんなことに興味がありますか? 八束さん ―以前からアロマオイルが好きです。アロマオイルは、植物から抽出したオイルなので、環境の変化などで収穫場所が変わったり、品質が安定しなかったりします。私の実家は兼業農家なので、私もその一角で仲間と数十種類のハーブを農薬を使わず栽培しています。自分たちが栽培した植物からオイルを抽出するのが夢ですね。環境に関心を持ち始めたのも幼いころからの自然な流れでした。 八束典子さん ―どうして環境教育という分野に取り組もうと考えたのですか? 八束さん ―もともと環境教育のサポートは、四国EPOが特に力をいれていることの一つです。昨年、学校との連携を深めるために四国の県庁所在地の小中学校265校にアンケート調査を実施したのですが、その結果、本当に多くの特徴ある取り組みが行われていることや、一方では環境教育の授業時間の確保にご苦労されていること、体系だった環境教育が必要であることなど、直接子供たちに接する先生方の奮闘ぶりや悩みを把握することができました。
  そこで、何とかお役に立ちたいと考えて、「環境読本」の作成を思い立ちました。そして、テーマを私たちの生活になくてはならない一番身近な「四国の水」とすることにしました。 四国の水 ―八束さんご自身は環境教育についてどんな印象をお持ちでしょうか? 八束さん ―環境教育の大変さはいつも感じています。というのは、「環境」はひとりの問題ではなく世界とつながっています。幅広い領域にわたる環境教育を分類別に学び、子供たちが自ら課題を見つけ、学び、考え、主体的に判断し、行動し問題を解決する学びから、持続可能な社会に向けた人づくりが大事だと思います。 ―「四国の水」をテーマに取り上げる発想の原点、背景は何でしょうか? 八束さん ―環境教育に関するアンケート調査を行った際の回答で、香川県の小学校では、「私たちの使う水は、高知の早明浦ダムに貯められた吉野川の水が、徳島の池田ダムに流れ、そして香川用水を流れてきている。」、「昔から沢山のため池があった。水のことで揉め事もあった。」ことなどを授業で学ぶと伺いました。そして、子供たちは、水源である高知の早明浦ダムに行ったりして、毎日使っている水がどんな水なのか実感できるだろうなあ、と思いました。香川の皆さんには意外かもしれませんが、このように水を広い視野で教えているケースは稀です。自分の住む街の中や県内だけのことを取り上げているのがほとんどだと思います。 四国の水をテーマとした環境教育 ―「四国の水」をテーマにすることのメリットとはなんでしょうか。 八束さん ―ふだん普通に使っている水ですから子供たちにとって身近であり、わかりやすいということです。だけど、子供たちにいきなり「水を大切にしましょう。」といってもこれでは何にも伝わっていない。「家庭でも水を汚さないようにしましょう。お皿についた油は拭き取ってから洗いましょう。お醤油を大さじ1杯川に流すと魚が住める水質に戻すためには、お風呂約3杯分(約600リットル)のきれいな水が必要です。」といっても、子供たちは少しびっくりするだけで終わってしまうような気がします。このように子供たちに教えても、実感が無いし、関心も深まらないと思うんです。
  そこで、テーマを「四国の水」とすることで、「四国という島に降り注ぐ雨から身近な水を実感できるようにする」、「水をキーワードに話題を広げることで体系だった環境教育に少しでも役立てる」ということが両立できるのではないかと考えました。 四国の水 ―「実感できるようにする」、「水をキーワードに話題を広げる」ということですが、具体的には? 八束さん ―まず、「実感できるようにする」という点から。
  四国には八つの大きな水系があります。まず、このことを知って欲しいと思います。そして身近にある川のことも。もちろん、それぞれの川で実際の事情は異なるわけですが、川は山深いところからはじまって、途中にダムがあって、そこに貯められた水は、川や水路を通って浄水場に運ばれ、家庭や工場で使われて、下水処理場で処理されて海へ流れていきます。この大きな「流れ」を意識しながら水について知ってほしいのです。また、小さな川は自分達の住む地域を越えて流れていますし、大きな川は県をまたがって流れているわけです。そのことから、四国地域の降雨量データも掲載する予定なので、水の始まりから四国地域全体を眺めることが出発点になります。つまり、「蛇口から出てくる水は何々川からやってきた水だ」ということを伝えたいのです。実感する第一歩になると思っています。 瀬戸内海の風景
  次に、「水をキーワードに話題を広げる」という点。
  水はいろいろな使われかた方をしますから、そこから話題を広げていくことができます。工場などで使った後の水のことで、公害問題が起こった歴史に触れることができるかもしれません。今の瀬戸内海は随分きれいになりましたが、高度成長期の一時期には大変な時代がありました。そして、私たちができること、持続可能な社会づくりを考えるきっかけになると思います。また、ダムには水力発電所があるところもありますから、そこからエネルギーについて、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの学習ができると思います。大きな風車が何台もある地域が四国にもいくつかありますし、大規模に太陽光発電パネルを設置しているところもあります。このような形で学習を広げていくと、子供たちの環境への関心、興味を広げるきっかけに役立つのではないか、また、少しでも体系だった知識を身につけることができるのではないかと思います。 四国の山、森林の風景 ―「四国の川の始まりは山深いところ」というお話がありましたが、水と山、森林との関係なども触れているのですか? 八束さん ―四国の中央はほとんどが山で森林に覆われています。地域ブロック別の林野率は約75%で全国トップです。そこから川は始まるわけですから、山や森林と切っても切れない関係ですし、川は海に流れ込んで生態系に大きな影響をあたえます。海との関係も、とても深いんです。環境読本ではこのような水の循環にも触れます。
  高知県の足摺の近くに「竜串」という奇岩で有名なところがあります。そこの海は、足摺宇和海国立公園の海域公園地区に指定されているのですが、2001年の豪雨で大量の土砂が湾内に流れ込み、多くの珊瑚が死に、竜串の自然は危機的な状況になっていたそうです。竜串湾に注ぐ河川の上流の森林では、大規模な山崩れが多発していたそうです。今でも、手入れが行き届いていない森林が残っているそうです。
  森林を保護することが、きれいな水のためにはとても大切で、珊瑚の命や生態系保全にも関わってくるということですね。生物多様性や間伐材の活用などに触れれば、相当深い話になってきます。 ―「環境読本」を作りながら、改めて何か気がつかれたことはありますか? 八束さん ―環境教育を総合の学習の時間、国語や社会科、理科や道徳などの授業でも、その学びの中で、環境の視点で考えてみたらどうなるだろうか、と先生方が子供たちに投げかけて欲しいです。それに、学校教育以外の生涯学習でも、環境教育を行うことにより、日々の生活にずっと厚みが出てくるのではないかと思います。 四国の川の風景 ―「環境読本」はどのような形になりますか? 八束さん ―見開きで一つの章を構成し、全体で5章構成の予定です。小学4年生から6年生を対象にしています。また、指導者の使い勝手の良さを高めるために、関連情報を加えた指導者向けバージョンもあわせて作成する予定です。 ―いつ頃、完成するのですか。 八束さん ―2012年の3月頃の予定です。 ―どのようにすれば利用できるでしょうか。 八束さん ―四国EPOのウェブサイト「四国の環境教育」のページから、自由にダウンロードできるようにする予定です。無料で提供しますので、多くの方々に利用してもらいたいと思っています。 四国EPO事務所の様子 ―これからも、いろいろな活動が広がるといいですね。 八束さん ―そうですね。私たち四国EPOは、多くの方々とパートナーシップをつくることで、環境への取り組みをサポートしたいと考えています。お気軽に声を掛けて下さい。 八束典子さん 掲載日:2011年11月18日 取材者:A・H