東日本大震災を教訓に
山内章正さん 山内石油 http://www.yamauchisekiyu.co.jp
昨年の東日本大震災は、東北地方を中心に、製油所の火災・爆発、津波による油槽所やガソリンタンドの損壊など、大規模で広範囲にかつてない被害を受け、石油製品の供給に大きな混乱が生じました。今回の震災を教訓に、今後、発生の可能性が高いといわれる東南海・南海地震にどう備えるべきなのか、地域の防災教育を含めて全国石油商業組合連合会四国支部長でもある山内石油の代表取締役、山内章正さんにお話をうかがいました。-震災により石油製品の供給に大きな混乱が生じましたが、その混乱の原因はどこにあったのでしょうか。 山内さん ―ガソリンの供給というのは「原油を積地に取りにいくところから車にガソリンを給油するところまで」が一つのチェーンになっています。今回は、精製設備から先が津波によって流され、ガソリンスタンドまでも流されてしまった。お客様が来ても供給ができない状況になりました。したがって、元売をはじめ、西日本から被災地へ向けてタンクローリー300台近くを送り供給を繋ごうとしたのですが、下ろす場所がない。そこで緊急のドラム缶を集めてポンプで供給する対策をとりました。一番の原因はそこにありました。
―関東エリアでもガソリンパニックを起こしましたが・・・ 山内さん -東京で顕著に現れたガソリンパニックは、みんなが開いているガソリンスタンドに集中し、無くなればまた別の開いているスタンドへ・・・といった具合にパニックを引き起こしました。通常の購買活動であれば供給に支障をきたすような状況ではなかったんですけど、あれだけ何度も余震が起きて心理的にも不安で、少ししか入らなくても満タンにしておきたい衝動にかられたのでしょう。ガソリンがなくなったところばかりの報道を見ていると、自分も行動しなきゃという心理にもなってしまいますよね。愛媛県でも、行列ができているスタンドにマスコミが取材をしていて、後で、愛媛県石油組合の理事長という立場でコメントを求められました。煽るような報道はしないように頼んだところ、「在庫は十分ありパニックになる必要はない」という趣旨のテロップを流してくれました。その後聞いた話ですが、5リットルで満タンになったというお客さんもいたようです。 ―そういう意味では、東南海・南海地震が起きた場合でも、ある程度のパニックはあるでしょうね。 山内さん -ある程度は仕方ない面もありますが、「ここは在庫がなくなってもタンクローリーが何時間後に来て給油できる」という情報を一元的に把握できる仕組みがありませんでした。
今、災害時に備えた中央の動きとして、元売ごとの精製設備と二次基地の在庫情報や輸送手段などの情報を集めて地域ごとに予め計画を策定するという提案が出されています。在庫や供給経路などの情報を管理していけば、必要に応じて指示を出せます。供給もスムーズにできるようになります。被災地でも、稼働しているスタンドの情報がいち早く上がれば、そこに集中的に油を届けることもできます。我々も含めて、国や自治体、報道も日頃から在庫情報や提供場所などをきちんと情報共有しておけば、不安心理は大分解消されると思います。
また、今回の東日本大震災でタンクローリーを運んではみたものの、はたしてフル活動したのか、あるいはどの程度機能したのか、そういうこともきちんと検証する作業が必要ですね。 ―石油製品の最終供給拠点として、停電になっても機能を失わない自家発電設備をもつ災害対応型のガソリンスタンドが期待されています。山内さんのスタンドでも愛媛県で初めて設置されたとうかがっています。 山内さん -平成21年2月、東予丹原インターチェンジSSに設置しました。自家発電のほか、太陽光発電、飲料水としても利用できる井戸水も設置し、報道でも大きく取り上げられました。東日本大震災では、災害を受けても残っていた災害対応型スタンドはありました。ただ、運営している元売系の販売会社の多くが震度5以上は出社しなくてよいというルールもあって機能しなかったとも聞いています。私の所では、3ヶ月に1度、自家発電を動かして、きちんと給油できる訓練を行っています。いざというとき、きちんと使える状態にしておくことが最低限必要です。自家発電などの設備に対し国から補助金をいただいている以上、公の器ですから、率先して機能しないと意味がないと思っています。
―被災した場合、地元自治体の連携や緊急車両に対する供給が重要になってきますが、具体的にはどういう仕組みになっていますか。 山内さん -今回の震災を踏まえ、最近、愛媛県と話し合いの場を持ちました。愛媛県と石油組合は平成17年に「災害時における自動車等の燃料の調達に関する協定」を締結しておりますが、今回の大震災を踏まえて見直しを行おうとしております。例えば病院や銀行に設置している非常用電源が震災時に使えなかったという話もありました。理由は、バッテリーがあがっていたとか、燃料が古くて使えなかったという問題でした。愛媛県では、その点はきちんと訓練をされており問題はないようですが、現在、非常用電源を動かす軽油の供給等について、石油組合として話を進めているところです。
また、私が所属している石油組合の支部では、西条市が所有する車両に燃料を供給する災害応援協定を市と結んでいます。平成16年の台風の上陸で西条市は水没などかなりの被害をうけ、JRや国道が寸断されました。その当時の西条市は供給できるガソリンスタンドが入札で決まっていて、緊急車両に供給できない状況になりました。そんなこともあり市から相談を持ちかけられた時、私が「平常時でも災害時でも石油組合に属する給油所なら基本的にどこでも給油できるようにしませんか」とポロッと言ったことがキッカケで、今のような「いつでも、どこでも」というシステムになりました。価格については、他のお客様と同じ通常の値段で供給するということで。こういうシステムは全国的に例が少ないと思います。 ―ガソリンスタンドの重要性が再認識される一方で、全国のスタンドの数は、ピーク時の平成6年に比べ36%減の38,777カ所になりましたが・・・。 山内さん -このままガソリンスタンドの減少が続けば緊急時はもとより、平常時でも安定供給の確保が懸念されていて、特に地方でスタンドの過疎化が進んできています。震災の時に電気・水・食料が無い中でも、スタンドが供給したガソリンや灯油などがあって、地域住民の命を守る役割が果たせたことは意味深いものがあるのではないでしょうか。どんどん減っていくイメージの強いガソリンスタンドですが、「本当になくていいんですか」、「実際になくなったエリアではこんな苦労もありますよ」、というお話をさせてもらうこともあります。皆さん価格が安い店ばかりを追いかけがちですが、地元と密着しているということにも注目していただきたいですね。
愛媛県伊予市でガソリンスタンドが閉店した地域がありましたが、伊予市中心部の別のガソリンスタンドが、海沿いの斜面で高齢者が多く住む、約130世帯の灯油の配達業務を引き継ぎました。集落では、社員が20リットルポリタンクを両手に配達しています。採算には合いませんが、使命感でやっています。災害時の拠点としてもスタンドは必要ですし、暮らしを守る身近なスタンドが無くなってからでは遅いんです。行政と住民で問題意識を共有し、地元スタンドを利用することを心がけるような対策を考えてほしいと思っています。スタンドはただ給油だけする場所ではなく、灯油などの配達、地域の情報の集まりでもあるのです。
―山内さんは西条市の教育委員として防災教育にも携わっておられますが、具体的な活動は? 山内さん -平成17年から関わっていることですが、西条市が「災害に強いまちづくり」の一環で小学6年生を対象に防災教育を始めました。平成18年度から「子供防災サミット」を年一回開催しています。例えば「自分の住んでいる地域のどこが危険で災害時にはどこに逃げるのか」、「非常持ち出し袋は準備できているのか」、「近所に誰が住んでいて、逃げるときに誰に声をかけないといけないか」・・・そういったことを知るために日頃から近所づきあいも必要なんだと、小学6年生が真剣に考えて自由に発表するような場なんです。こうした取り組みが国連にも評価を受け、平成22年9月に国連事務総長特別代表が西条市を訪れて表彰いただいたり、国連が発刊している防災教育の事例集の中でも大きく取り上げられ、広く世界に紹介されました。 ―昨年の10月にベトナムに行かれたのもこの活動の一環ですか。 山内さん -この取組がたまたまJICA(国際協力機構)の目にとまって、ベトナム中部で毎年洪水の被害を受けているフエ市に、西条市の教員と一緒に訪問する機会がありました。小学校2校を訪問し、タウンウォッチというマップを作って生徒に発表してもらいました。
西条市での活動もそうですが、子供たちへの防災教育を通して、近所の人との対話、友達と一緒になって物事を考えること、もう一つは自分の言葉として発信するいい訓練になっています。今後は、中学生も含めて年代に応じた防災教育を進める中で地域の人との関わりを学び、また、災害対応型スタンドの存在や役割を教え伝える、そういう活動を今後も続けていきたいですね。
掲載日:2012年1月16日 取材者:Y・S