「こんまいけど、いちにんまえ」
小西智都子さん ROOTS BOOKS

日本で一番小さな県、香川県の高松市に、女性2人で頑張る小さな地方出版社があります。今回は、本という媒体を通じて、まちや島の魅力を発信しているROOTS BOOKS の代表、小西智都子さんのお話をうかがってきました。




ただ、うちの父がなぜ出版を始めたかということは、よく覚えていて「香川で印刷の仕事をさせていただく限りは、お金になろうがなるまいが、残す必要のある情報や記録をカタチにしていくのが印刷会社としての自分の使命だ」と言っていました。
―出版業に関わるようになったのは、お父様の影響が大きいのでしょうか。 小西さん -そうですね。幼い頃から本に囲まれていたから、意外と本を作ることに抵抗が無かったかもしれませんね。



香川に帰ってきてからも、最初はお金を貯めて、また県外に出ようと考えていました。ところが、たまたま高松市の女性センター(現:男女共同参画センター)で非常勤嘱託として働き始めたのを機に、「ダサダサだ」と思っていた高松で、いろいろな人たちが、様々な活動をしていることを知ったんです。「香川に何もないんじゃなくて、自分が知らないだけだったんだ」って。

その後、地元新聞社が発行する生活情報紙の編集部を経て、フリーランスになりました。しばらくして、「地産地消」や「地方の時代」と言われ始めたころ、本屋に行って、ふと、無性に腹が立ったんです。これだけ「地産地消」と言われているのに、本屋さんに並んでいる本の大半は東京で作られたものなんですよ。
本って、考え方や生き方の「ものさし」を作るもの。つまり、借りものの「ものさし」で香川を見ている限り、正しく地域を評価することは出来ないじゃないかと思ったんです。それなら、その地域に住む人が自ら考えてつくる本があってもいいんじゃないかと。
たぶん大学時代に抱いていた香川コンプレックスも、借りものの「ものさし」で見ていたからかもしれませんね。



それからは、原点回帰の出版社「ミシマ社」と一緒に、本の企画から営業まで疑似体験するワークショップ「ミシマ社寺子屋」を開催したり、四国経済産業局の「しこく編集学校」にも参加して、いろいろな気づきをもらいました。

今、編集学校で出会った仲間たちと「"四国"という切り口で本を作ってみよう」という企画が動き始めています。高知に行ったり徳島に行ったり、お互いの県を行き来しながら楽しくミーティングしているところですよ。
-出版社を立ち上げて良かったことは? 小西さん -今の日本では、ふつう、出版は分業制です。見えない誰かに向けて、作業が行われている感じだけれど、ROOTS BOOKSでは「作るところから届けるところまで」、すべてを自分たちの目で見届けることができます。規模が小さいからできることなのかもしれませんが、全体を見ることは商売の原点だと思っています。
「こんまいけど、いちにんまえ(一人前)」、これが私たちの合い言葉です。




そう言いつつも、まだまだ長老たちから教わっている途中・・・。「ものさし」は何かを測るための道具ですよね。ということは、自分一人だと必要ないんです。自分と周りの間を推し測り、理解するための尺度だと思います。だから目盛りは同じでも、どこで、誰と一緒にいるかによって、ちょっとずつ意味合いは変わってくる。
四国にも、この土地独特の「ものさし」があると思います。
―出版、まちづくり、島での活動など、いろいろなことをされていますが、今、特に力を入れたいことは何ですか。 小西さん -この土地のルーツをきちんと残したいです。例えば郷土料理で言うと、材料は地元のものを使っていても、市販の調味料を使っていたのでは本物の味は再現されないんですよ。その土地ならではの味というのは、そこに暮らす人たちが生活の中で伝えてきたものだから、人がいなくなると残らない。ものは永久に残っても、それをどう捉えるかということは、そこに生きてきた人じゃないとわからないですからね。その土地の「ものさし」というのも、そういうものかもしれませんね。
仕事がら、図書館に行って郷土資料を見る機会が多いんですけど、過去の人がきちんと残してくれているから、振り返ることができるのだと感じています。


四国には、ここの土地の良さを知っている人が、まだまだたくさんいらっしゃると思います。だから、自分たちでしっかり考え、選択していけば、四国の未来って明るいんじゃないのかな、と思います。
掲載日:2012年2月10日 取材者:S・M