球根をお届けする、それも「モノづくり」
中村 裕司さん 中村農園 http://nfb.co.jp

高知県高知市長浜に、切り花の生産者に地球の裏側からユリの球根をお届けする中村農園という会社があります。取扱高は世界有数、社員わずか17名で17億円超の売上をあげています。なぜ、四国・高知で世界を相手にする企業が成長してきたのか、その秘密に迫るため、中村農園の代表取締役社長、中村裕司さんにお話をうかがってきました。


父は高校の教員でしたが、花作りに憧れがあって生徒さんたちと花を作ったりして勉強していたようですが、高校を退職し、本格的に切り花に取り組み始めたようです。

最初は花作りだけでしたが、昭和30年に長崎県産のユリの球根を取扱い始めたようで、ここが球根を取扱う中村農園の起源だと言えます。
その後、30年くらい前になりますが、父がオランダへ視察に行った際、球根会社が冷蔵庫で球根を凍らせて保管し、生産者が作りたい時に球根を提供しているのを見て衝撃を受けたようです。この頃からオランダ産のユリ球根を取扱いたいと思うようになったそうです。


そんな生活を送っているうちに、父が一時非常に体調を崩した時期があり、その事が自分の人生と家族や故郷との関係を問い直すきっかけになり、まあ、そうしたなかで高知に戻る決心をしたわけです。 ―入社してからは、どのように事業展開されていったのですか? 中村さん ―まず、平成2年に会社を設立し、日本で初めてオランダ産の隔離免除ユリ球根(防疫のために特別に隔離して栽培しなくてもよい球根)の輸入を行いました。また、球根を冷凍するための専用冷蔵庫を高知のメーカーの協力を得ながら自社で建設しました。日本のユリ球根取扱業者で球根専用の本格的な自社冷蔵庫を所有しているのは我が社を含めて2社だけです。

平成4年からは、オランダと日本の気候の違いを意識し、オランダよりはるかに気温が高いスペインやイタリアでユリの栽培に関する技術を学び、球根を植える前から栽培管理を行う技術(プレ・ルーティング・システム)を栽培農家に紹介しました。当初はなかなか理解していただけなかったのですが、若手の方が実際にこの技術を導入して結果が出たものですから、全国各地にどんどん普及していきました。今では暑い時期の栽培には一般的な技術となっています。
平成11年には、栽培期間を長くするために季節が逆になる南半球のチリやニュージーランドのユリの球根を取扱い始めました。これも日本で最初の取り組みです。
―次々に新しいことにチャレンジされていますね。 中村さん ―新しいチャレンジは何も売上規模を大きくするためにやっているわけではなく、「ユリ球根を取扱ううえで何が必要か」ということを長い目で考え、必要なハードやソフトに取り組んでいった結果です。




平成19年には、念願であった自動管理システムの自社試験農場(ハウス)も建設できました。さらに平成21年にはソーラーシステムを設置した最新の冷温蔵庫も完成しました。この冷温蔵庫はこの業界では世界で最先端の機能を有しており、オランダの取引先も驚いています。
試験農場と冷温蔵庫の完成をもって、我が社が目指していたものが特にハードを中心に一応の完成を見ましたが、培った技術を生かす次の"何か"を思案中です。
我が社は「流通業+α」を指向しており単に球根を輸入して販売するのではなく、球根に工夫を加え完成度を高める、いわば「モノづくり」の考え方で事業を進めています。そのことが理解されたのかユリのマーケット自体は平成11年のピークから約3割程度縮小していますが、我が社のシェアは逆に上昇しています。




これは、なかなか大変なことですが、こういったことができるのも、試験農場での栽培を通じて様々なノウハウが蓄積されているからです。昨年は全品種の99.7%の花が会期中に開花しました。まさに「モノづくり」としての取り組みの成果だと考えています。
ノウハウの蓄積という意味では、社員が顧客の皆様にタイムリーに必要なデータを提供できるシステムを構築し、営業トークで単に商品を売るのではなく、会社の中身をお客様に認めてもらって商品を販売できるようにもしています。


差し迫った課題としては、BCP(事業継続計画)への対応があります。南海、東南海地震に備えて、高知県の防災計画で津波の高さの見直しが行われていますが、我が社の施設が被害を受ける可能性があるんです。施設についての災害対策はできるだけ進めていこうと考えています。災害発生時に、なるべく早く復旧できるよう、いろいろな手当はしていますが、社員の安全を確保することが何よりも重要だと思っています。全ての対策を一度には出来ないので、1月に一つずつ対策を、といった具合にできることから着実に進めているところです。

今、海外へ日本のノウハウを持って行って現地で作るという話もありますが、私は日本にいてもチャンスはあるのではないかと考えています。日本の製品は品質と正確性が圧倒的に優れています。私が見る限り、花に関して言えば、日本の花作りは世界と勝負できるものだと思っています。国産の花を海外市場へ売り込むお手伝いができないか、課題や可能性を模索しているところです。


掲載日:2012年6月1日 取材者:T・T