木桶でつくる島の醤油屋。孫やひ孫に本物の醤油を受け継ぐために今できること。
山本康夫さん ヤマロク醤油 http://yama-roku.net

醤油や味噌や日本酒など日本の食を支える基礎調味料づくりには、かつては木桶が欠かせませんでした。しかし、生産性や品質安定のために木桶を使っているところは少なくなりました。実は、日本全国に3,000~4,000本ほどある木桶のうち、約1,000本もの桶が香川県の小豆島で醤油づくりに使われています。ひとつの地域に昔ながらの醤油蔵がこんなに密集している地域は他にないそうです。そんな小豆島の醤油蔵が立ち並ぶ地域で、こだわりの醤油をつくられているヤマロク醤油 五代目、山本康夫さんにお話をうかがってきました。―このあたりを歩いていると、醤油の香ばしい香りが漂ってきますね。小豆島ではどうして醤油づくりが盛んなのでしょう?




この醤油蔵が集まる「醤の郷(ひしおのさと)」と呼ばれる地域は、小豆島で最も高い寒霞渓(かんかけい、標高817m)という山の麓にあります。ここから吹き下ろす「寒霞渓おろし」と呼ばれる暖かく乾いた風が、醤油醸造に関わる菌にとって過ごしやすいのだと思います。








戦後の醤油づくりは菌の発酵をコントロールするために、発酵のしくみがわかっている菌を培養して添加し、発酵させるんです。発酵の過程で菌がいろんなものをつくっていてそれらが複雑に絡み合って、醤油のうまみとか甘みになる。その仕組みはとても複雑でよくわかっていないんです。



木桶にはそういう働き者の菌がたくさん棲んでいて、添加しなくても一緒に醤油をつくってくれる。で、なぜかおいしくなるんです。眼に見えないものを完全にコントロールするのは無理ですし、蔵によって味とか香りの特徴がでますけど、それは棲んでる菌が違うからなんです。今の科学でもわからない不思議なことだらけですよ。









「今、我々が動かなければ、日本の食文化の基礎が崩れてしまう!」
そう思って、小豆島の大工 坂口直人・三宅真一と私の3人が、木桶職人を目指して藤井製桶所で修行することにしました。これが「木桶職人復活プロジェクト」です。出来るかどうか考えるより、まずは行動です。藤井製桶所さんから指導していただきながら、我々3人で木桶を組上げられるよう、日々精進しておりますので、皆さん応援してください。


―そんなに捨ててるんですか!?



この再仕込み醤油ができるまでは4~5年かかりますから、「生きているうちにあと何回再仕込みをつくれるかな?」とか考えますよね。ものづくりの期間が長いので、自然と世代を超えて考えるようになる。それ以外のことは急いでしないと気がすまないけれど、醤油だけは200年先のことを考えています。何100年も前のご先祖様、ひい爺ちゃん、爺ちゃん、父ちゃんと受け継いできたものを、自分の子どもや孫、そのまた先に伝えていくのが僕の仕事です。

掲載日:2012年6月26日 取材者:S・Y