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現状に甘んじない。
先を見据えて、今できることを。

武田敦年さん みかん職人武田屋  http://www.takedanouen.com

みかん職人武田屋のみなさん
 愛媛県の南端、愛南町。ここには、豊かな自然が育む美味しい農水産品が多くあります。なかでも柑橘は、生産量日本一といわれる河内晩柑をはじめとして、多くの品種が出荷され、高い評価を受けています。
 その愛南町に本社を構える「みかん職人武田屋」は、絶えず新しい取り組みにチャレンジしながら、2億円近くを売り上げている会社です。自然環境は申し分ないものの、交通インフラでは決して恵まれてはいないこの地から、販路を日本全国に広げています。また、平成24年2月には新社屋物流センターを完成させ、さらなる成長を遂げようとしています。
 今回は、社長の武田敦年さんに、生い立ちからこれまでの経験談や、同社の強みである直売などについてお話をうかがってきました。

武田敦年さん ―武田さんのご両親もみかん農家だったとお聞きしていますが。 武田さん ―そうですね。僕が3歳頃、両親がみかん作りをはじめました。僕は、小学校低学年くらいからずっと手伝っていました。はっきりと覚えているわけではありませんが、仕事自体を面白く感じていたと思います。自分では、長男に生まれた時点で、もう跡継ぎなんだって、なんとなく思っていました。
柑橘 -学校も、柑橘の関係に進まれたのですか? 武田さん ―中学まで地元でしたが、高校から松山に移り、愛媛大学農学部附属高校の果樹園芸学科に進みました。科目の中には、農業基礎、果樹、草花、野菜、畜産農業全般などの科目がありました。その後進学した愛媛大学農学部では、柑橘学を専攻しました。7年間を通して、いわゆる基礎的な知識は習得できました。これも、自分にとっては有益だったのですが、同じく有益だったのは、実家の手伝いでした。高校と大学時代、休みは、基本的に実家の手伝いをしていました。その手伝いの経験が、今につながっていると思います。あと、アルバイトの経験も大きかったですね。
物流センターの様子 -アルバイトはたくさん経験されたのでしょうか? 武田さん ―アルバイトが好きだったので、ウエイター、ホテルの皿洗い、新聞配達など、可能な限り頑張りました。お金を稼ぐことも目的だったのですが、むしろ、社会勉強の面で役に立ったと思っています。「人に使われる」ことを経験することができたので、従業員の気持ちを理解することの重要性がわかりました。また、アルバイトの経験を積み重ねていくうちに、信頼していただき、「おまえに任せた」って言われることもあって、具体的な仕事だけでなく、アルバイトの人員配置など、一定レベルの組織マネジメントも任せてもらいました。この経験は大きかったですね。仕事量をみながら段取りを組んで、個人の適性なども考えながら人員を配置していきました。これらの経験は、就農したときにとても役に立ちました。
愛南町の風景 -具体的にはどういった点が役にたったのでしょうか? 武田さん -そうですね。たとえば、農家の仕事のひとつに草刈りがありますが、これってアルバイトでできるんじゃないかなと考えました。普通、農業をしていると、みかんの収穫にしても、草刈りにしても、それをするのが当たり前のことが多いんです。ただ、自分が就農したときに感じたのは、農業の一つ一つの作業のなかでも、アルバイト、もしくは雇用で対応できる部分があるんじゃないかっていうことでした。そういった、「組織としての農業」の重要性に気づき、3年後に法人に切り替えました。このような発想は、アルバイトの経験が少なからず影響していたのかなと思います。
武田敦年さん -農家を継ぐことにためらいはなかったですか? 武田さん -なかったですね。両親の姿が影響していると思います。もし、みかんを栽培することについて、しんどいとか、跡を継ぐなとか、おまえはよそで働けみたいなことを言う両親だったら、そうならない、と思うんですよ。両親は、そういうことは言いませんでした。むしろ、全く逆でした。「みかんはいい」ってことを言っていました。そんな両親の姿をずっと見ていたから、ためらいなく、自分もそうしようと思ったし、自分が加わることによって、日本一になりたい、ただ漠然と日本一になりたいと、十代の頃から常にそう思い続けてきました。
柑橘畑 -注目されているインターネットを活用した直販についてお聞かせ下さい。 武田さん -確かに、インターネットで売れているっていうお声をいただくことがあります。でも、ホームページの立ち上げ自体は、早いほうではなかったし、逆に、僕らの会社より、きれいなホームページを作っているところはたくさんあります。ただ、実際は、インターネット、ホームページがあるから売れているんじゃないと思っています。僕らにとって、インターネットは、あくまで注文方法の一つなんです。ただ、インターネットによる注文が増えれば、事務作業を効率化できます。今の規模を維持するのであれば、そこまで、インターネットに注力しなくてもいいかもしれません。でも、先を見た時に、やはりコストは無視できません。この部分のコストは、デジタル化でカバーできる部分ですよね。それだったら、その余力を新事業に振り分けていったほうがいいと考えています。
子ども達からのメッセージ 収穫された柑橘
発送用の段ボール
-そのようなビジネス的発想は、どこからうまれるのでしょうか? 武田さん -はっきりした理由というのは特にないのですが、常識的な考え方は嫌なんです。常に、誰もやったことのないようなことをしていきたいと思っています。何やっても変わってるというか、誰もひらめかないところをやっていきたいと思っています。現状維持ではなく、たとえば100倍まで到達しようと思っていることが、僕らのなかで、絶えず現状を打破していく原動力になっているのだと思います。僕らの会社は、必死で働く人ばかりです。絶えず、数年先に、今のままでは持たなくなるという危機感を社員で共有できているのだと思います。こういった点から、新しい発想が生まれてくるのではないでしょうか。
会社外観 -いまでは、関東方面の給食にも一部採用されていると聞きます。 武田さん -別件で東京に行ったときに、学校給食で取引がある仲買さんと出会ったんです。その方は、たまたま産地直送を考えていたようでした。ただ、農家さんと接点がないからどうしたらよいかと・・・。仲買さんにとって、直売のメリットは大きいと思います。たとえば、価格は同じくらいだったとしても、直売であれば、仲買さんにとっても、作り手の顔が見えます。そういう方との出会いっていうのが、偶然うまくマッチしました。
物流センターの様子 -学校給食、かつ遠方とのつながりを維持していくために、努力されたことはありますか? 武田さん -学校給食の関係者の方々の要望に耳を傾け、しっかりと応えることですね。それは、価格というより、栽培法や、規格、サイズ、出荷の体制、箱などの要望です。これらは、決して簡単なことではありません。僕らは栄養士さん、仲買さんの思っている部分を細かく聞き出して、可能な限り応えることができるんですよ。これは、直売だからこその強みだと思います。そして、今や関東だったら、今日出荷しても、明日には到着します。直売だから、時間の差でも勝負できます。仲買さんにとっては、こういった差を実際に体感すればするほど、メリットを肌で感じることができるようです。そして、仲買さんが、農家とつながっていることで、産品に込められた想いをダイレクトに理解することができ、頭の中でストーリーにしやすいようです。一般消費者はもちろんのこと、学校給食ではなおさら、そういった点は重要になってきます。学校給食ならではの大変さもありますが、そこは、たとえ愛媛の南端という距離の問題があったとしても、頑張って克服してきました。そういう長年の蓄積が、「武田さんに言えば何とかなる」っていう信頼感につながってきているのだと思います。それは最大の強みであると同時に、誇りですし、喜びでもありますね。
みかん畑の様子 -これからの夢についてお聞かせ下さい。 武田さん -夢って果てしなく大きくなっていきます。このままで終わりたくない、もっと先にいってみたいですね。そのためには、会社をある程度成長させていかないといけません。利益が出たら、また投資して、また次の事業をしていきたいですね。最近販売を開始した「ジェラート」もそうですけど。将来にわたっても、僕ができることは、やっぱりみかんなんです。ほかの事業は分からないから無理なんですよ。僕は、みかん農家で生まれた以上は、みかんしかないと思っています。そして、この地域でみかんで成功する人をいっぱい作りたいですね。あと、やっぱり愛南町が好きなんです。ここで生まれてここで育ってきました。だから新社屋もここに建てました。そのなかで、地域の活力に少しでも貢献していきたいですね。
武田敦年さん ジェラート
みかん畑の様子


掲載日:2012年11月22日 取材者:A・K