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映画館の固定観念を壊しながら、新たな映画館像を追い求める

小畠源さん テイクワン (アイシネマ今治)
https://e-takeone.com/

小畠源さん
 今治市は人口約16万人、四国で5番目の規模の都市です。ここには、今では珍しくなった単館映画館が中心市街地に残っています。「アイシネマ今治」という名のこの映画館は、今治出身の映画人が想いを込めて、使われなくなった映画館を再生させたものです。映画館の固定観念を壊しながら、新たな可能性を追い求めている代表の小畠源さんにお話をうかがってきました。

アイシネマ今治看板 ―アイシネマ今治の概要について教えてください。 小畠さん ―設立は2006年の4月で、シアターが2つ、スタジオが1つです。収容人数は全部で400人くらいで、「ピッツェリアラ・ソワレ」というカフェを併設しています。 アイシネマ今治館内 -周辺に、ほかの映画館はなく、飲食店も少ないですね。 小畠さん ―どちらかといえば、このあたりは夜の街でした。昔の映画館は夜の繁華街に立地している場合が多いです。この映画館もそういう立地条件ですから、今は周辺に遊ぶ場所は少ないですね。一方で、シネコンを核にした大型ショッピングモールに行くと、映画以外にも一日遊べる何かがあるんです。だから、僕らはできる範囲で、「ここに数時間いても楽しい、という場所を作りたい」という考えのもと、この映画館を運営しています。 今治市の風景 -小畠さんが映画館をはじめようと思ったきっかけは? 小畠さん ―僕は、かつて、水野晴郎事務所に所属していました。次第に映画評論のサポートだけではなくて、「映画も作りましょう」ってことになったんです。映画を作るってことは、制作と配給をやるんですね。そして、最終的には、「映画館をつくろう」という話になって、実際に映画館もつくったんです。その仕事が何より面白かったんです。それがきっかけですね。 アイシネマ今治館内 -映画館は、作品の出口であり、見せるところですよね。 小畠さん ―映画館は、一般のお客さんが、自分でお金を払って作品を鑑賞して、生の言葉が返ってくるんですよ。うわべではない、ほんとのリアクションが返ってくる。十人十色なんですけど、それが面白かったんですよ。それまでは、映画関係者相手の仕事が多かったせいか、映画館という"場"がとても新鮮で、これこそ映画の醍醐味を感じる場所だと思いました。 アイシネマ今治館内 -映画に興味を持ったのは、いつ頃からなんですか? 小畠さん ―今でも覚えているんですが、僕が最初に観た映画は、「ローマの休日」です。2回目に観たのが、「サウンド・オブ・ミュージック」。こどもの頃、家族でご飯を食べた後に、正座して映画を見る時間があり、クラシックのいい映画に触れることができる環境でした。家族に映画を観せていたってことは、親が相当映画好きだったんですね。そのほかにも、「インディージョーンズ」とか、様々なジャンルの映画を見ていたんですよ。そうしたら、おかげで自然と映画好きになっていました。 小畠源さん -そして映画の道に進まれたんですね。 小畠さん ―父親が、映像制作をしていましたので、映画の世界っていうよりは、「映像の世界に行くんだ」という気持ちはずっとありました。でも、高校を出るまでは、地元の映像制作の手伝い程度で、特に何もしなかったですね。本格的にこの道に入ったのは大学からです。 -大学ではどのような勉強をされたのですか? 小畠さん ―大学では芸術学部美術学科映像コースに進みました。当時、僕はカメラマンになりたかったんですけど、次第に、自分のなかで、「俺、カメラ向いてないよな」などと思いはじめ、プロデュースだったり、ディレクションの道を目指すようになっていきました。 今治市の風景 -今治に戻られることになった経緯は? 小畠さん ―先ほどの話に戻りますが、サラリーマンとして最後の大きな仕事が、映画館をつくることだったんです。でも、いろいろあって数年で撤退することになりました。ちょうどその頃、僕も30歳過ぎで、実家が映像関係の仕事を続けていて、父親もずいぶん前に亡くなっていますから、「そろそろ帰ってこんか」という打診もありました。そして、今治に帰るんだったら、自分で映画館をもちたいなって思っちゃったんですよ。平坦な道ではないのはわかっていましたが、映画館の仕事をやっていたが故に。でも、映画館をゼロから造るというのは非常にお金が掛かるので、どこか残ってないか探して、唯一残っていたこの映画館跡を購入しました。 アイシネマ今治館内 -県庁所在都市でない今治で、映画館をつくることへのためらいはなかったですか? 小畠さん ―今治はおもしろいところない、買い物するところない、だから市外に行くという声をよく聞きます。加えて、全国的にエンターテイメントに使われるお金は年々減る傾向にあります。このような状況下では、映画館は、映画好きだけでなく、いろんな人が集まって来る場所にならなければならない、というのが僕の考え方です。国の支援もあって映画館のデジタル化が果たせ、可能性が無限に広がり、映画だけでなく、ライブだったり、舞台だったり、多種多様なお客様を楽しませることができるようになりました。映画館として、いい音響と大きなスクリーンは売りになるので、いわゆる、「従来からの映画館の良さ」を求めるお客様の層は確実にとらえながら、いろんな遊びがこの映画館で実現できるようにしていきたいです。そうしないと、今後の映画館は成り立っていかないのではと考えています。こういった考え方を含め、いろんな視野を持つことの重要性は、東京で学びました。 アイシネマ今治館内 -そのほか、東京での生活の中で学んだことはありますか? 小畠さん ―映画館を経営されている社長さんからの、「できるだけ映画を観ないように」というアドバイスは今でも守っていますね。僕は、映画が好きで映画の業界にいますが、自分が観るとどうしても主観が入り、「この映画いいですよ」って押しつけになってしまう可能性があります。でも、みんな好みはいろいろですよね。シネマコンプレックスという場所は、多種多様な人間がいろいろな作品を選ぶことが出来ます。一方で、単館映画館は、支配人の嗜好が反映されて、いわばニッチなラインナップになりがちです。それも単館映画館の良さです。うちの映画館は、ニッチな方にもニッチでない方にも愛される、中間的立場を目指しています。 アイシネマ今治館内 -確かに単館映画館の多くは、ニッチな作品が多いような気がします。 小畠さん ―フィルム中心の時代は、基本的にニッチしかあり得なかったんですよ。でも、デジタルという分野ができた時、コンテンツの幅がものすごく広がりました。例えば、舞台はとても貴重なコンテンツです。地方から東京の舞台を見に行くには、様々な制約があります。でも、地方の映画館で手軽に触れることができれば、観客の思考が変わってきます。映画って昔からそうなんですけど、一番手軽なエンターテイメントであるべきなんです。安く体験できるという根底は崩しちゃいけないと考えています。僕たちみたいな映画館が生き残っていくためには、「映画館たるもの」というような、昔からの固定観念を捨てることがポイントだと思っています。 アイシネマ今治館内 -固定観念は捨てられても、映画人としてのプライドは捨てられないのではないですか? 小畠さん ―時代の変化を受けとめないといけないという意識ですね。昔はレンタルビデオなどなくて、映画は映画館で観なくちゃいけなかった。でも、今は、スマートフォンの普及などもあり、どこででも手軽に映画を観ることができる時代です。そういう時代の変化の中で、映画館はもっと柔らかくやっていかないと生き残っていけないという意識は常にあります。映画人というプライドは絶対に捨てません。でも、映画館の大きなスクリーンといい音響は映画以外で何に使えるんだろうということを常に考えて運用していかないといけないと思っています。極論を言えば、デジタル化によって、うちの映画館は、お客様が撮影した個人的作品を、超高級な状態で見ることもできるんですよ。それも映画館のひとつの可能性かなと思っています。 アイシネマ今治館内 -想いは強くても、行動には移すことは難しいと思います。何がポイントなんでしょうか。 小畠さん ―とりあえず動くことじゃないでしょうか。動いて失敗することはあるんですよ。でもそれも経験じゃないですか。お金払ってもできない貴重な経験かもしれません。僕が外で出逢っている人は、掛け値なしに、「うわ、すごいこの人の考え方!」という人が圧倒的に多くて、どんな困難な状況でも、しっかりと自分の仕事をやり遂げています。多少無駄な時間になっても、動くべき、外に出て行くべきだと思います。動く前に無駄と決めることはないですね。人との出逢いは動くからこそ得られる財産です。その繰り返しで自分の"経験値"を高めていくしかないんだと思います。 アイシネマ今治館内 -やはり、最後は人なんですね。 小畠さん ―例えば、会社って人が残しているわけですよね。いま、僕はテイクワンの小畠ですけど、僕がテイクワンの小畠じゃない時代も来るんですよ。会社がなくなるってこともあるし、誰かが引き継ぐ事もあります。会社は会社、僕はどこまで行っても僕。自分自身を必要とされるように、死ぬまで自分を育てないといけないなと考えています。僕は、昔から家族に、「覇者にならずに王者になれ」と言われてきました。「覇者は人との争いに勝って上に行く。王者はみんなから認められて上に立つ」という意味です。そこまでの域に達するのは、まだまだ遠い道のりですが、地域や人に認められることを目標として頑張っていきたいと思います。 小畠源さん

掲載日:2013年1月15日 取材者:A・K