「みやび」と「ひなび」を対等にしたい
玉井大蔵さん ひなのや http://hinanoya.co.jp

愛媛県西条市丹原町。幹線道路から奥まったところに、農家のような外観の店があります。
この店から産まれているのは、パン豆と呼ばれるポン菓子。地元で古くから親しまれているパン豆に、新たなパッケージや味付けを加え、県外にも販売しています。そんなパン豆の生産・販売を行う、ひなのやの玉井大蔵さんにお話を伺ってきました。


しかし、製造を始めても素人だから毎日ロスが出て、嫌になりました。どうしようと困っていた時に、ちょうどお米を膨らます機械が手元にあったので「試しに膨らましてみるか」と。でもこんなの売れるわけないなと思いながら、地元の産直市場に持って行きました。

土地柄に助けられたところもあります。これが他の地域だとこんなにスムーズに進んでいかなかったと思います。
-土地柄に助けられた、というのはどういうことですか? 玉井さん - この西条、今治、新居浜あたりの人は、先にも述べた結婚引き菓子としての文化もあり、パン豆に馴染みが深く、思いのほか潜在需要が高かった。愛媛大学でパン豆の研究をされている先生がいらっしゃるのですが、その方の推測では、愛媛県は全国消費量ナンバー1だろうと。近所の人達に「ちょっとごめん、マメ(方言=米の意)はじくけん、昼間やかましいかも知れんけど」って言ったら、「マメ屋が出来た」とうわさになり、そのことを聞きつけた人が米と砂糖を持って「膨らましてくれ」と来店してくれます。そんな土地柄です。 -口コミで広がったということなのでしょうか。 玉井さん - そうですね。大変ありがたい話だと思います。また今では口コミ以外で県外への販路もできてきました。壬生川駅の近くに、食の創造館という三セクの施設があり、そこに置いてもらっていたところ、そこへ県外のお店のバイヤーさんが四国のお菓子をということで、パン豆を持ち帰り評価してくれたことがキッカケです。 -パッケージのイラストが特徴的ですがデザインは有名な方にお願いしたのでしょうか? 玉井さん - 隣町で美大出身の女性がセミプロでデザイナーをやっていて、その女性と知り合う機会があり、イラストをお願いするようになりました。セミプロだから、僕も気持ちの余裕があって言いたいことを言えました。そのようなコミュニケーションを積み上げて、パッケージのイラストは出来ています。
商品そのものというよりも、昔からある、みんなが知っている駄菓子を新しくパッケージングしたというところが評価されている一番のポイントだと思います。
-新しいことをするというのが好きなんでしょうか? 玉井さん - 人と同じことが嫌ということがあります。引き出物のパッケージも昔から地元で流通している既存のパッケージを使ってもそれなりに売れると思いますが、それでは面白くないというか。
自分じゃなきゃとか、お前じゃなきゃ、あの店じゃなきゃ、と周りの方に言って頂けないと差別化にもならないし、差別化が出来ないと商売にならない。という感覚は昔からありました。
-地域の農業を守ることも意識しているのでしょうか? 玉井さん - 地域の農業を守るというと大袈裟ですが、意識はしています。原料のお米は全量地元産。自身でも米作りをしています。以前は、米作りに自ら携わるよりも、もっと商品の販売や流通に力を注いだ方が良いのではという思いもありました。しかし、最近では、それは良くないという気がしています。この辺りの人はパン豆を手土産として買ってくれますが、「土産」って土から産まれると書きますよね。販売にばかり力を注ぐと土から離れていくような気がしてならないんです。 -「土産」と書くところから土、そういうところを考えるところがカッコイイですね。ひなのやという名前も考えて付けられたんですか。 玉井さん - 先人は偉いと思います。ふと気が付くと「あぁ、そうっか」って。ある人から聞いたのですが「雅(みやび)」に対する言葉が「鄙美(ひなび)」らしいんですね。「みやび」というのは、都会の美しさとか、上品さという意味ですけど、「ひなび」という言葉には田舎の美しさという意味がある、と。なんとなく「みやび」のほうが、素敵で上品でいいモノ。一方の「ひなび」はひなびたとか野暮ったいといった下のイメージが先行しがち。ずっと見上げながら暮らしていくのはイヤじゃないですか。やっぱり都会と田舎の価値対等にしたいという思いがあります。なのでひなびを伝えていくお店、という事で「ひなのや」にしました。
-間違いなく先駆者になっていらっしゃるのではないですか? 玉井さん - 少しずつ自信が付いてきました。お客様からお褒めの言葉をいただいたり、そういったものの積み重ねがあって、自分の中になんとなく自信が生まれてきました。キッカケは良く分からないのですが、子供ががむしゃらに自転車の練習をしているうちにいつの間にか補助輪が外れている、そんなイメージです。


最近、関東のある町のお菓子を口にしました。そのお菓子はインパクトがあってとても美味しい。その町には会社員時代に何度か足を運んでいるのですが、山に囲まれて海が無いので絶対住みたくないと思っていました。でも、こんな素敵なお菓子がある町だったら素敵な町に違いないと今は思い直しています。西条もそういうふうになればと思っています。
掲載日:2013年9月4日 取材者:F・Y