伴走型支援が生む地域の活力
小松昌裕さん Car Wash KTEX https://www.wax-wash.com/
茂井康宏さん 高知商工会議所 http://www.cciweb.or.jp/kochi/

中小企業の87パーセントを占める小規模企業。小規模企業の頑張り・挑戦は、地域経済の活力です。しかし、経営基盤の脆弱な小規模企業では、頑張りや挑戦が直ちに成果に結びつくとは限りません。そこで重要となってくるのが、そうした活動をしっかりとサポートする支援機関の存在です。
今回は、高知市で「水なし出張ワックス洗車サービス」という四国初となる新サービスを立ち上げ、順調に業績を伸ばしているCar Wash KTEX代表の小松昌裕さんと、同氏に寄り添って支援してこられた高知商工会議所専門経営指導員の茂井康宏さんにお会いし、創業時のご苦労や創業支援の勘所などについてお話を伺ってきました。

-創業のきっかけを教えていただけますか。 小松さん もともと車が大好きで、国内A級レーシングドライバーとしてレースにも出ながら、プロのレーサーを目指して、ディーラーでメカニックとして働いていました。その時に感じたのが、「車が汚れている人が多いな。車をきれいにできないだろうか」ということです。車をきれいにすると、気持ちが良いし、きれいに乗ろうとして、事故も減ると言われていましたから、そんな仕事をしたいという思いが湧いてきて、起業しようと思ったんです。

-創業を思い立って、何から取り組んだのですか。 小松さん 自分なりに事業計画書を作って金融機関を訪ねました。そこでのアドバイスが、創業を考えているなら高知商工会議所に相談してみたらということでした。早速、高知商工会議所を訪問したところ、そこで対応していただいたのが茂井さんでした。

茂井さん 相談を受けたとき、彼が考えている業態は非常に厳しいというのは分かっていましたので、大丈夫だろうかという気持ちがありました。ただ、彼に、強い決意を感じたんです。決意というのは、イコール実行力です。そこで、彼に賭けてみようと思いました。

小松さん どのようなサービスにするのか、価格はどうするのかということを計画書にして、茂井さんに見てもらいました。何度もダメ出しされましたが(笑)。 茂井さん 「こんなのではダメだ」と厳しいことも言いました。でも、一生懸命計画書を作って持ってくる人はあまりいないですよ。彼は努力できる人なんだなと感じましたね。
高知商工会議所では、経営革新フォーラムを毎年開催しており、一定成功を収められた経営者より生の声を発表いただくのですが、一番後ろの席で見ていた彼が、「茂井さん、僕は来年あそこに立ちたいです」と言ったんです。「よし、そんじゃ死ぬ気で頑張るか」ということで、一緒になって戦略を考えていきました。

-その結果、水なし出張ワックス洗車サービスを思いついたのですか。 小松さん 実は、水なし出張ワックス洗車は最初の計画にはなかったんです。 茂井さん お店で待っていてもお客さんは来ない。それならば、攻めるしかないと考えました。しかし、水を使うと場所が限られてしまいますし、排水の関係で環境面でも良くない、ああでもない、こうでもないと考えていくうちにたどり着いたのが、水なし出張ワックス洗車サービスでした。ちょうどその頃、九州のある企業が行っている駐車場での洗車サービスが、ご当地ヒット賞に選ばれた記事を見つけ、「これは酷似している。いける」と自信を深めました。地元のスーパーへ、買い物中に待ち時間なく洗車ができると提案したら、「過去に例がない。おもしろい」と即決していただきました。

小松さん 茂井さんには、その提案資料の作成だけでなく、洗車サービスを始めるにあたって、案内チラシ、のぼり、立て看板の作成までも手掛けていただいたうえ、初日には、チラシ配布も一緒にしていただきました。

茂井さん これまでの経験で、特に経営資源が少ない小規模企業は、事業計画書を作って終わりではなく、寄り添って一緒にやっていかなければ、計画内容を具体化することは難しいと身に染みて感じていたんです。初日には、お客さんが10人来てくださったのですが、嬉しかったですね。
-創業する中で、くじけそうになったことはないですか。 小松さん 何度もありました。茂井さんに支援していただき頑張るのですが、正解が分からず、解決の糸口も見出せず、そのうち行き詰まってしまうんです。何日もずっと作業をしていると、間違っているんじゃないかと思えてきて、もう止めようかと何度も思いました。そんなときに、茂井さんに話をすると、「何を言っているんだ。それぐらいで止めるんじゃない」と叱られるのです。 茂井さん 彼にとっては、初めてのことで不安だったんですよ。ただ、僕は事例を知っているので、「大丈夫、みんなそうだよ。今だけだよ。あの人もこうだった、こんな例もある。目標に向けてこれとこれが必要なので、それを一つずつやっていこう」と励ましました。

小松さん 何度も背中を押してもらいました。話をしているうちに不安が希望に変わっていくんですね。 茂井さん やはり、一人だと不安だと思います。しかし、そばにパートナーがいてくれると違います。商工会議所の経営指導員に気軽に相談してもらえる、拠り所にしてもらえるというのは、それも我々のあるべき姿だと思います。

-創業後の販路開拓はどのようにされましたか。 小松さん 水なし出張ワックス洗車サービスについて、ガソリンスタンドや洗車機との比較による優位性や実績などをまとめ報道機関へプレス発表を行い、新聞社やテレビ局など10社に取り上げていただきました。あるテレビ局では、全国で戦える企業として特集までしていただきました。今では、地元スーパーのほか、ゴルフ練習場でもサービスを行うまでになっていますし、この洗車から高額のコーティングへとつなげる戦略にも取り組んでいます。一方で、企業向けには、相手に応じたサービスや提案の仕方を茂井さんと一緒に考えていきました。

茂井さん 私は、以前、東京のある通販会社でバイヤーをしていました。30分刻みで商談があるのですが、ほとんどの会社が、単にこれを売りたいと持ってくるだけなんです。これをどのように売ればいいのかはこちらが考えないといけない状況でした。そうするとどうしても後回しになってしまいます。一方で、お客さんへの売り方までしっかりと提案してくるところは、商談が進み、実際に売れていくんです。

それと同じで、お客さんとなる企業をしっかりと定めて、それぞれのお客さんに合った提案を何度も何度も作り、一社一社あたっていきました。 小松さん そうした地道な営業活動の結果、いくつかのディーラーと取引が成立しましたし、さらには、突然ある上場企業の中古車業者から商談の電話をいただき、取引をさせていただくことにもなりました。茂井さんには、「備えるべきものを備え、努力をしているところには、不思議なことが起こるんだよ」と言っていただきました。

-事業をする上で、心掛けていることは何ですか。 小松さん 何よりも、お客さんの車は自分の車だと思って取り組んでいます。そして、お客さんの立場に立って、それぞれに違う要望をできるだけくみ上げようと考えています。レースでは、メカニックをしているのですが、自分もレーサーをしていたので、レーサーが何をしてほしいのかがわかるんです。それと同じです。車の汚れ方や壊れ方を見て、こういうところを走っているのかなと想像しています。同じ汚れに見えても実は違っていて、それに応じて洗車の仕方を変えています。


-小規模企業を支援する立場として、茂井さんはいかがですか。 茂井さん 我々も同じです。相手の立場に立つことです。大上段に構えるのではなく、相談される事業者の目線になって一緒に考えることだと思います。機会を捉え、強みを生かし、相談される方の身の丈にあったことを提案していく。そして、そこの組織力で実行できることに優先順位を付けて、一緒になって支援していく。そういう泥臭いことを一つ一つやっていくことが必要だと思っています。

経営支援というのは、お客さんと一緒にどぶさらいをすることだと思うんです。全然きれいなもんじゃない。それで初めて信頼関係もできて、心も開いていただけて、隠し事のない話ができます。そうじゃないと、現状さえも正しく把握できないし、できることとできないことは何なのか、何が効果的なのかもぼやけてしまう。そういう意味で伴走型の支援が本当に大事だと思っています。

それから、小規模企業の支援にあたって、経済産業省にお願いしたいことがあるのですが、もっと小規模企業にスポットライトを当ててほしいと思います。小松さんのように頑張っている人たちがたくさんいますが、埋もれているんです。今回の取材のように、光を当ててもらうことでモチベーションにつながりますし、その周辺の人も、よし俺も頑張ろうと励みになりますので。
-これからの抱負や目標があればお聞かせください。 茂井さん お客さんが心を開いてくださり、自分を頼りにしてくださるのはすごく嬉しいことです。私は中小企業診断士の資格を持っていますが、今後さらに勉強と経験を積み重ねながら、どんな悩みをもったお客さんが来られても、問題解決・課題の達成に寄与できるようになりたいと願っています。
また、経営指導員、そして中小企業診断士として、課せられた使命を胸に、地域経済発展のために人生を賭けて邁進していきたいと考えています。

小松さん 創業して苦しいことも多いのですが、自分が始めたサービスで、お客さんに「お願いしてよかった」と言っていただき、リピーターになっていただける、それが自分の喜びであり、励みになっています。車がきれいになって、安全運転にもなり、自分の心もきれいになる。そんな喜びをさらに多くの人に味わってもらえたらと思っています。
それから、今後の目標として、再びレースに出たいと思っているんです。これまでのレースで、全国各地の社長さんと知り合いになることができたのですが、私がレースに出て、高知のスポンサー企業のステッカーを車体に貼って走ることで、そうした社長さんや観客に高知の企業をもっと知ってもらいたいのです。そこから、商談が生まれるかもしれません。思わぬところに波及するかもしれません。そうしたことで、地域に役立つことができれば嬉しいですね。今の事業を頑張りながら、目標に近づいていければと思っています。


掲載日:2014年10月31日 取材者:W・S