本気で鮮度日本一を目指しています。
所 紀光さん 企業組合 宇佐もん工房 http://www.urume.jp

土佐市宇佐地区では、昔から干物(乾燥干)用としてウルメイワシが水揚げされていました。漁が行われるのは冬場の短い期間に限られます。ウルメイワシは特に傷みやすく、脂の乗り具合に応じて傷みやすさも増していくという特性もあり、傷みにくい冬場しか注目されてこなかったのです。-県外のご出身だそうですね。 所さん 2002年に来ましたが、当初のイメージは今も変わっていないと思います。私は愛知県の出身で、東京で10年間生活していましたので、都会と自然、それぞれの良さを理解していると思っています。妻の実家が土佐市宇佐町だったことや、南国にあこがれのようなものがあったこと、高知に来たときに食べたものがとてもおいしく、特に魚に良い印象が残り高知を好きになっていきました。
県外から高知に来られた方の多くは「高知の魚はうまい!」と言います。企業組合宇佐もん工房 代表理事 所紀光さんに、これまでとは逆の「傷みやすい季節」のウルメイワシを使った地域活性化策について、お話を伺いました。

-土佐市に来られたときの第一印象は? 所さん 人間らしい生活、人の温かさ、地域の人それぞれに生活力があると感じました。こういったことは高知にやってくるまでは、あまり感じたことがありませんでした。地元商工会の青年部に加入したこともあって、同世代の方といろいろな活動に参加したり、イベントを運営するということを通じて、いつの間にか「地元感」を味わっていると思います。「人間らしい生活ができる」と感じたのは、高知に来てからで、いろいろと変化が大きく、新鮮に感じつつも自ら積極的に活動することにより、本当の意味で土佐市宇佐地区にのめり込んでいったと思います。
-いろんな活動を通じて、地元に入り込むことができたんですね。 所さん 会社の前身が、地域おこしを目的とした協議会組織(宇佐うるめプロジェクト協議会)で、そもそも立ち上げたのが商工会青年部でした。以前から、青年部の中で地域おこしとしてイベント等を行っていたんですが、イベントレベルではなく、宇佐町にお金が落ちる仕組みを作りたいということでスタートしました。地域おこしをしようという同年代が集まって良い雰囲気になり、行政とも良いタイミングで関係が構築でき、県外からやってきた私もうまく連携することができました。県や市などの行政も支援してくれたおかげだと思っています。
-「ウルメイワシ」に注目したきっかけをお教えください。 所さん 協議会で地域活性化や町おこしを考えていました。宇佐地区は漁師町で、何かをしようとしたときには、新しいことをするよりも漁師町として町を活性化させていくことが皆のためになるだろうということで、まずは「魚」に注目しました。魚の中でもウルメイワシに着目したのは、一年中獲れる魚であったことと、生で食べた時に感動する人が非常に多かったことが決め手となりました。脂が乗っている5月から12月の間は特においしく、独特の甘みも増すため、より感動を味わうことができます。


-「ウルメイワシ」の特徴、魅力などをお教えください。 所さん 一般的に食べられている真鰯と比べても、弱りやすい魚だと言われています。生簀の中で生かすとしても、真鰯は固い鱗に守られているから問題ありませんが、ウルメイワシは生かすことが難しいと言われています。一本釣りをしても、鱗がはがれたり、傷んだりすることがある弱い魚です。だからこそ、逆に鮮度にこだわりました。
ウルメイワシを網で獲ると、魚体がこすれてしまって、鱗が全て無くなってしまいます。これでは、魚体に負担がかかってしまい味に影響してしまうので、一本釣りで釣ったものをダイレクトに氷水に入れることで、身をぎゅっと締めてしまうことにしました。
もともと、宇佐では釣りで漁を行っており、網は使わないことが普通です。ウルメイワシの漁は冬場に行い、乾燥させて製品化することが一般的でした。干物を作るには、脂がない時期のものが好まれますが、生で食べるなら脂が乗っている季節が最高です。干物用とは逆の季節が食べ頃です。船の上での管理も、冬場は外気、水温も低く、脂が乗っていないため傷みにくい。逆に脂が乗った夏場は、非常に繊細で管理の仕方や温度の影響を受けやすいので、少しのことで傷んでしまいます。そのため、一本釣りは、船上できちんと鮮度管理をしてくれる漁師にお願いしています。

-宇佐もん工房が、設立されるまでの経緯などをお聞かせください。 所さん もともと、鮮度にこだわる漁師がいて、協議会時代にみんなでウルメイワシのブランド化を進めていこうということになりました。企業組合の前身である協議会は、宇佐地域のいろいろな組織、団体に入ってもらい、地域一帯となって、少しずつ少しずつ前進していこうとしていました。漁師の方々も一緒になって考えてくれましたね。
田舎で何かしようとすると「出る杭は打たれる」ことが多いですが、丁寧に周りを巻き込みながらやってきたので、理解を得られるようになったんだと思います。漁協にも当初からメンバーに入ってもらっていて良好な関係です。また、企業組合として組織変更し、ウルメイワシを使った地域活動を繰り広げてきた結果、雇用や消費ということを通じて地域の皆さんに貢献できていると思います。関係者全員が本気でウルメイワシと向き合い、事業として取り組んできたことが、現在の我々を支えてくれていると思います。


-地域全体で「ウルメイワシ」を盛り上げようという空気があると聞きましたが、具体的にはどのような取組をされてきましたか? 所さん 毎年5月3日に「大鍋まつり」が開催されています。目玉は大鍋で、「うるめいわしのつみれ汁」を約1500人分作って振る舞っています。以前は、近隣でとれたアサリを使っていましたが、認知度が高まってきたのでウルメイワシに変更し、鍋を約2mのものに変更しました。また、初期段階の頃、飲食店で定番メニューとして取り扱ってもらうために、土佐市内を中心に「うるめいわしフェア」を開催しました。ウルメイワシは料理人にとっては手間のかかる魚であったことと、「ウルメイワシ=干物用」というイメージが一般的であったこともあり、店側としても本当にお客様を呼ぶことができるのかどうか半信半疑だったので、それを解消したいと思っていました。何とか参加してくれたお店それぞれに「1000円のうるめまるごと定食」を提供してもらったところ、食べ歩きをするお客様が出てきて、楽しんで頂ける空気が自然にできあがり、お店同士で競い合うような空気もあって、真剣勝負してくれたのではないかと思います。
これを継続化させるため、常時取り扱っている11店舗を取りまとめた「うるめMAP」を作成し、スタンプラリーとして楽しめるように工夫しています。


-地元ではどのような調理法で食べますか? 所さん 昔から干物や酢締めにして食べる方法が一般的ですね。我々が取り組みをはじめてからは、生で食べる方法も広がってきています。また、加工品に関しては、当社は業務用の商品販売に力を入れており、例えば3枚おろしにした冷凍いわしなどを飲食店に卸しています。個人向けとしては、「オイルサーディン」は人気定番商品で、その他、「漬け丼のもと」などがよく売れています。


-「ウルメイワシ」の加工品製造販売だけではなく、飲食店もされていますが、飲食店を始めようと思ったきっかけは? 所さん ウルメイワシの食べ方を提案したかったんです。地元の飲食店で、ウルメイワシを生で出していた店が無かったことが大きいですね。週末は県外からも多くのお客様が足を運んでくれており、このお店での活動を通じて干物用の魚というイメージから、生で食べるとおいしい魚というイメージへと転換してくれていると思います。県内の居酒屋でも、以前は干物しかメニューに置いていなかったのが、今ではごくごく一般的に刺身で食べる魚へとイメージが変わったように思います。

-イベントやパンフレット作りなど、地域が一つにまとまって活動できていますが、その秘訣は? 所さん 宇佐地区がちょうど良い大きさ、規模だったことが大きな理由でしょうね。広すぎない中で役割もうまく分担でき、地域全体を巻き込んだ活動ができたんだと思います。多くの人を巻き込んでいる分、スピード感は決して早くはないですが、自分達ならではのスピードで進めたことも良かったと思いますね。
-これまでいろいろとご苦労があったと思いますが、最も大変だったことはどんなことですか? 所さん 協議会から法人化するまでの半年間が大変でしたね。協議会は任意の団体、つまり、ボランティア団体なので、ちゃんとした会社にしないと継続して地域にお金を落とすことができないと思ったんです。また、地域貢献性の高い会社ということで、行政にもいろいろな面で支援してもらいました。おかげで地域に密着した、地域に貢献できる組織としてここまでやってくることができたと思っています。
-「ウルメイワシ」が持っている潜在能力、可能性などをお教えください。 所さん 本物でないと売れない時代の中で、本物でありながら、ウニや蟹のような高級品というわけではない、ウルメイワシならではの潜在能力を十分に見極め理解しながら、大手企業がまねできない隙間で勝負していくことがポイントだと思います。蟹のような高級品だと大手企業が参入してくるかもしれませんよね。イワシを一匹一匹釣りあげるという効率の悪さが、どこにもない唯一無二の企業にしてくれたんだと思います。
他にない商品であることと、お客様に感動を与えられている商品であること、その二つがあれば絶対需要は生まれると思います。「雑魚」と言われていた時代もありますが、ウルメイワシが持っている潜在能力は非常に高く、まだまだ売れる可能性を持っています。


-これから取り組んでみたいことや、やろうと思っていることなどをお聞かせください。 所さん 永遠のテーマですが、ブランド化するためには多くのファンをつくること、これに尽きると思います。一本釣りウルメイワシは語りつくせない魚であるため、ファンになって頂くには、一定の説明が必要だと思います。ウルメイワシの釣り方を含めた生産背景を丁寧に説明しながら、一人でも多くのファンを作っていきたいですね。究極はその日に水揚げされた魚が全部鮮魚として扱われ、全国で消費されてしまって、加工品を作っている暇がない状態になることですね。
-最後に、所さんにとって「ウルメイワシ」とはどういう存在ですか?「ウルメイワシ」に対する想いをお教えください。 所さん 難しいですが、一言で言うなら「大事なパートナー。切っても切れないパートナー」ですね。

掲載日:2016年8月5日 取材者:K・F