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ハチマキ絞めずに地域貢献

若宮武さん ゲストハウス若葉屋 http://wakabaya.main.jp/

若宮武さんの写真
 香川県高松市、私鉄のターミナル瓦町駅から電車で一駅の花園駅、そこから歩いて5分。高松市の中心からちょっと東にはずれた場所にゲストハウス「若葉屋」があります。
 「旅好きな私たちが泊まりたくなるゲストハウスを」、そんな想いで2014年7月、自宅を兼ねてオープンされた若宮武さん。やろうと決めたキッカケは、青年海外協力隊として活動していたセネガルだったそうです。
-青年海外協力隊で活動されていたそうですが、子どもの頃から海外に興味があったんですか? 若宮さん  中学の時、英語の先生のすすめでガーナやウクライナの人たちと国際文通をし始めた頃から、海外に強く興味を持つようになりました。
 高校の時には高松市内の国際協力団体でボランティア活動に参加するようになりました。大学は、国際協力を学びたくて大阪外国語大学(現:大阪大学)に進学。また、モンゴルのNGOにコンタクトを取って国際協力の現場を見に行ったり、いろんな国を旅したりもしました。
若宮武さんの写真

 国際協力の業界って、決まったキャリアパスがあるわけじゃないんですが、「3年間の企業経験」「2年間の国際協力経験」「大学修士課程の卒業(できれば外国の大学)」を求められることが多いんです。それで私も大学卒業後に企業で3年間働いた後、国際協力の経験を積もうと、JICA(※)の海外ボランティア派遣制度「青年海外協力隊」に応募し、セネガルへ行きました。※JICA:独立行政法人国際協力機構

-セネガル、ですか。 若宮さん  普通、知らないですよね。西アフリカです。首都のダカールは、モータースポーツのパリ・ダカール・ラリーで知られてるんじゃないでしょうか。
 ただ、私が赴任したのは、セネガルでもダカールから300km近く離れたメディナサバという村です。停電は日常茶飯事で、一週間続いたこともありました。

-そのメディナサバ村ではどんなことをやっていたんですか? 若宮さん  養蜂をやっていました。
 赴任する数年前、JICAが養蜂を含む、森林資源の保護プロジェクトをやっていました。私の前任者がそれのアフターフォローをやっていたんです。
 私には養蜂の経験がありませんでしたが、やってみると面白い。セネガル人にも、ハチミツがカラダに良いという認識があって、採蜜して売りに出ればすぐに売れて、住民の収入源になるし、養蜂は失敗のリスクが少ないこともわかってきました。それで、前任者から養蜂を引き継ぎました。
メディナサバ村で、採蜜を終えた男性3人と若宮さん
~メディナサバ村で、採蜜を終えた男たち~

 そんな感じでメディナサバでの活動が始まりました。
 ところで私は、学生の頃から国際協力に興味を持っていましたが、大きいインフラ整備、幹線道路や橋をつくるということではなく、もっとローカルな活動に関心があったんです。地域住民で野菜を共同栽培して、その収益を共同管理して、というような。
 ところが、ローカルに入っていけばいくほど、地元住民にはかなわないんですよ。
 村の中の人間関係、お金の感覚、時間の感覚、冠婚葬祭…。住んでいる人なら誰でもわかっていることが、外国人にはすぐにはわからない。
 ローカルにいくほど、自分は外国人なんだって感じる。

 一方、地元住民はというと、村の獣医、パパイヤなどの苗木をつくる育苗家、米農家、みんなそれぞれがそれぞれに仕事をしている。
 獣医は、村の家畜の予防接種をしたり、家畜の分娩介助もする。当然、お金をもらうんだけど、これは国際協力でいう「家畜保健」への貢献といえる。
 育苗家は、果樹栽培で一番難しい育苗がその仕事。村人はお金を出して苗木を買って、後は自分で育てて、果物がなったら市場で売る。育苗家は、自分の生計を立てつつ、果物販売による現金収入を生み出し、しかも、国際協力でいう「緑化」にも貢献しているといえる。

 もう一つ、私がはっとさせられたことは、セネガルのお父さんたちは、日本のお父さんたちよりも、自分たちの子どものことをよく知っているということ。イクメンなんていう言葉は必要ない。仕事場(主に農地)と自宅がすぐそばにあるから、それが当たり前の生活。
セネガルでの若宮さん

 私たちは「国際協力」というハチマキを締めて、外国からセネガルの村へとやって来ています。しかし、私は2年間の活動や、生活を通して、「国際協力」のハチマキを締めた外国人の側ではなくて、村の育苗家のような、一人の地域住民の側になりたいと思うようになりました。

-ゲストハウスという選択肢は、どこから? 若宮さん  まず、頭にあったのはこの3つです。
  • ○「地元」で働こう
  • ○「地域おこし屋さん」じゃない仕事をしよう
  • ○「自宅」で働こう
 ある時、旅行でカーボベルデという、セネガル沖の島国へ行ったんです。
 島ではゲストハウスに泊まりました。オーナーが自宅を兼ねているゲストハウス。
 そこに泊まって、全部がつながったんです。地元高松で、自宅兼のゲストハウスをすれば、あの3つすべてが実現できるって。
 私は旅行が好きで、ゲストハウスは利用者としてよく知っている。だから、どういうモノがあればうれしいか、逆にどんなゲストハウスは使いづらいかがわかる。
 「自分が泊まりたいゲストハウスを作ろう」って思ったんです。

-若宮さん自身が泊まりたくなるゲストハウス。「若葉屋」ではどんなことをされているんですか? 若宮さん  例えば、シーツ掛け。普通はお客さんがやるんですが、自分が旅行で宿に着くと、荷物を置いてすぐ出かけたいんですよ。それに、深夜に酔って帰ってきてシーツを掛けるのも面倒だし、ほかの人がシーツを掛ける音も結構うるさい。最終的にはシーツなんか掛けなくなって、布団が汚れてしまう。だから、若葉屋では初めから布団にシーツを掛けてあります。

若葉屋の内装 若葉屋に置かれた大きいベッドと若宮さん
~普通より一回り大きいベッドは、大工さんの特注品~

 また、台所の水道には浄水器を付けました。中華圏の人は水筒に水を入れて持ち歩く人が多く、「水道の水は飲めるか?」って、結構聞かれていたんです。一度、ネットのクチコミに「浄水器が付いていたら良かったのに」って書き込みがあって。書き込みは一件だけだったけど、そう思っている人はもっと多いんじゃないかと思って取り付けました。そしたら、この間、「浄水器が付いていて良かった」というクチコミが書かれていたんです。
 いろいろあるんですが、細かいところを見落とさないよう心がけています。

-オープンされて2年半、やって良かったですか? 若宮さん  もちろん!(即答でした)
 今、子どもがココを通って公園へ行ったでしょ(※)、家族との時間をしっかり持てているなぁって感じます。(※15時すぎ、昼寝から目覚めた2歳の息子さんが一人で登場。お父さんと時間を過ごした後、お母さんと公園へ行きました。)

 ゲストハウスって、拘束時間が割と長いんですよ。お客さんがいつチェックインするか、わからないですからね。
 でも、ココだったら自宅でのんびりしていて、チャイムが鳴ったら扉1枚開けて、ゲストハウス側に出向くだけなんです。

 また、毎日いろんなお客さんが来るので、面白いですよ。自転車で旅行している人、お遍路さん、東京からキックボードで来た人。パスポートを忘れた人に、レンタカーをぶつけた人。

 瀬戸芸の時は、島々をどうやってまわるか、毎晩ココで作戦会議をしていました。混み具合や、複雑なフェリーの航路やチケットの仕組みなんかは、旅行者、特に外国人旅行者にはわかりにくいですよね。その点、私は今や外国人ではなくて地元住民ですから、手に取るようにわかる。作戦会議の結果、思い通りに島巡りが楽しめた人からは、すごく感謝されています。

 お客さんと会話をする中で、人気の行き先や、こちらが用意しておくべき情報がわかってきます。それに応じて、パンフレットや資料の送付を各方面に手配するんです。必要とされている地域の情報をつかみ、どう提供するか。常に情報を集めていないといけないと思っています。

 そして、地域貢献というハチマキはしていないですけど、地域の役に立っている実感はあります。ガイドブックやネット検索だけでは行き着けないであろう、田舎の小さなスポットへも送客できていますし、ゲストハウスのそういった潜在能力に気づいた地方自治体からも、観光行政への意見を求められることがあります。
若葉屋の内装
~奥のパンフレットラックは、パンフレットの大きさに合わせた手づくり~

-これからどんなゲストハウスにしていきたいですか? 若宮さん  大きくしたり、多店舗展開する気は全くありません。
 お客さんとやりとりする中で、ココをこうしたらどうだろうって思うことが、いっぱい出てくるんです。そういうことを一つひとつやって、質を上げていきたいですね。
 そして、自分がまわせる範囲で、家族と一緒に生活しながらやっていきたいんです。
 こういうのは、セネガルへ行かなかったら、気づかんかったところですね。
若葉屋の看板

掲載日:2017年2月27日 取材者:Y・K