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大工さんに、さらなる「誇り」と「喜び」を

西尾直樹さん、丸西昌人さん、白川歩夢さん 高陽建設株式会社 https://www.koyo-w.jp/

西尾直樹さん

香川県高松市、香川大学創造工学部の向かい側にある古民家ギャラリー。木の香りが心地よい、この古民家ギャラリーでは、木の良さをいかしたさまざまな家族の物語がつくられています。

全国的に年々大工さんの数が減少していく一方で、伝統構法(※1)を受け継いでいく大工さんを育成し、「“大工”という職業のあり方」を変えようとしている、高陽建設株式会社の代表取締役、西尾直樹さんと、同社の大工さん、丸西昌人さんと白川歩夢さんにお話を伺いました。

(※1)伝統構法:無垢材や自然素材を用いて、金物に頼らず、手刻み加工した木材同士で組み上げる構法。

古民家ギャラリー外観

-西尾さんは2代目とのことですが、会社を継ぐきっかけは何だったのでしょうか?

西尾さん

そうですね、僕が物心ついたときには、常にうちには6~7人くらいの大工さんがいて、いつも一緒にご飯を食べていたんです。それが僕にとっては当たり前の風景だったのと、周りから「2代目になるんだよね。」と言われ続けていたので、自然と、会社を継ぐのかなと思っていました。

それで、建築系の学校に行ったんですが、大学では木造建築の学科が無くて、結局、木造建築とは関係の薄い環境工学を専攻しました。会社を継ぐことからも離れていって、関東でそのまま、冷凍や冷蔵の空気を扱う会社に就職しました。具体的には、人工雪をつくったりしていましたね。このままその仕事を続けようかと思っていたのですが、僕が31歳のとき、急に父が倒れて、会社を継ぐことになったんです。その当時、大工さんを10人くらい雇っていたので、会社を潰すわけにはいかなかったんです。

-先代社長の時代から自社で大工さんを雇っていたのですね。

西尾さん

昔、僕が子供の頃・若い頃は、大工さんを社員として雇っている企業が多かったんですが、バブル崩壊やリーマンショックの厳しい環境で減っていってしまって、うちはなんとか残ることができたんです。

古民家ギャラリー内に立つ西尾直樹さん
「ギャラリー」は、先代社長が初めて建てた家を移築・リノベーションしたもの。

-周りがどんどん大工さんを外注にしていく中で、高陽建設さんがそのままであり続けた理由は何でしょうか?

西尾さん

父の言葉と、大工さんを大事にしたいという思いですかね。父は自身が大工だったので、「大工は社内に置け、雇用をしっかりせえ。」とずっと言っていました。あと、今大工さんってどんどん減っているんですが、それなのに、大工さんの所得って低いんですよね。せめて、公務員並みにしたいですね(笑)

-大工さんって今そんなに厳しい状況なんですか…。

西尾さん

そうなんです。特に、個人で大工をしている「一人親方」は、その収入の中から社会保険料や道具代、車代を出していますし、もしケガをしたら収入がゼロになってしまうんです。そんな中で職業を続けることは難しいし、自分の子どもに勧めたいと思わないですよね。僕は、苦しみながら仕事をしてもらうくらいだったら、そんな会社は無くしたほうが良いと思うんです。だから僕は、大工さんに「もの」と「心」の両面からやりがいを感じてほしいと思っているんです。

-「もの」と「心」、ですか。

西尾さん

「もの」のやりがいは、レベルの高い仕事を任せることです。伝統構法を使うこともそうですし、若い子にも少しレベルの高い仕事をどんどん任せていくようにしています。「心」のやりがいは、職業に対する誇り、喜びだと思うんです。だから、所得を上げてあげたい。そのために、「大工職人のブランディング」をしようとしているんです。

古民家ギャラリーの内観

-大工さんのお仕事自体は、昔と今では違うのでしょうか?

西尾さん

違いますね。僕が子どもの頃・若い頃は、田舎によくある伝統的な家が主流で、大工さんも手で釘を打っていましたが、僕が13年間関東に出ていた間にかなり変貌していましたね。僕が香川に帰ってきたとき、大工さんたちは「新建材(※2)」、ボードをペタペタ貼るような仕事をしていて、大工さんが大工道具を持っていなかったんです。衝撃でした。

(※2)新建材:小さな木材を接着剤で組み合わせた集成材や、プラスチックでつくられた建築材料のこと。プリント合板や石膏ボード、人工大理石など。安価で扱いやすい。

-確かに、大工さんが釘を打っている姿は見かけないですね。

西尾さん

コスト重視の経営だと、大工さんを雇用せず外注にして、新建材を使った方が良いんですけど、それだと、大工さんの持っている技術が無駄になってしまうんです。せっかく良い技術があるのに、もったいないですよね。ですから、あるときから、地元の木材や伝統構法をふんだんに使う、今の形にしました。

-でも、伝統構法、手作業での家づくりとなると、かなり手間暇がかかるのでは?

西尾さん

そうですね。「継手(※3)」と呼ばれる部分は、今ほとんどの家が機械加工でできるものになっています。でも、うちは木の力だけでしっかり組み込む伝統構法にこだわっています。機械加工だと数分で1つがいできるんですけど、手作業、例えば「追っかけ大栓(※4)」という構法だと1日に2~3つがいしかできないんです。でも、強度を比べると、「追っかけ大栓」は機械でつくったものの6倍の強度があるんです。ずっと住む家をつくるなら、絶対こっちの方がいいですよね。ただ、そのままだと家1軒つくるのにとてつもなく時間がかかってしまうので、機械に任せられるところは機械にと思って、「機械加工と手作業のハイブリッド」を取り入れたんです。

(※3)継手(つぎて):材木同士を継ぎ足して長さを増すときに用いる手法。
(※4)追っかけ大栓(おっかけだいせん):ジグザグのように男木と女木を組み合わせ、横から栓を打つ手法。強度が格段に増し、上下左右さまざまな方向からの衝撃にも強い。
鎌継ぎ(機械加工) 追っかけ大栓(手作業)

左が「鎌継ぎ(機械加工)(※5)」、右が「追っかけ大栓(手作業)」。

(※5)鎌継ぎ:突出部をつくった男木を女木にはめ込む手法。機械でも加工可能な継手で、簡単な反面、強度と耐久性は劣る。

-全国的にも珍しい、大胆な方向転換ですね。大工さんの反応はどうでしたか?

西尾さん

やはり、機械を導入したときには反発がありましたね。伝統構法の美徳って、切るところを示す線をギリギリ残すか、残さないかっていう、本当に細かいところなんです。でも、機械加工だと一律に切断してしまうんですね。ですから、機械を取り入れている今でも、大工さんの目利きって大事なんですよ。木の特徴や乾燥度合いを大工さんがしっかり見て、機械の微妙な調節をしてもらって、機械を使いながらも木の良さをいかせるようにしています。

-機械を取り入れて効率化を図りながらも、大工さんの育成が必要だったのですね。

西尾さん

僕が会社を継いだとき、大工さんはみんな50代や60代だったんです。今も大工さんの高齢化が問題になっていますけど、当時からでしたね。その現状もあって、「これだと、高陽建設には10年後、誰もいなくなってしまう。まずい。」とも思ったんです。それで、大工さんの育成をしようと思いました。

-大工さんの育成をすることが、「大工職人のブランディング」に繋がっていくのですね。

西尾さん

そうです。やっぱり大工さんを安定させてあげる仕組みをつくるためには、いい家をちゃんと付加価値をつけながらつくり続けていくことが必要で、そのためにはまず技術が必要です。大工になりたい若い子を育てていく場が必要なんです。長い年月はかかりましたが、平成29年4月にやっと「かがわ技塾(※6)」を開校できました。うちの職人、大工や設計士の1年生はみんなここの塾に通いながら、社員としての仕事もしていきます。

(※6)かがわ技塾(かがわぎじゅく):平成29年4月に開校した、高陽建設が運営する職業認定訓練校。座学(講師:大工、設計士、左官屋、西尾社長など)と実技の両面から、建築の基礎を学ぶことができる。

-高陽建設さんでは若い方でも「墨付け(※7)」など重要な仕事を任されていますが、それも育成の一貫ですか?

西尾さん

普通は若手に「墨付け」を任せないですからね。中途採用の丸西くんは、うちに来て若手が「墨付け」しているのを見てびっくりしていましたよ。僕は、できることは若いうちにどんどん任せて、成長できる機会をたくさん増やしてあげたいんです。

(※7)墨付け:大工が木材に加工するための目印。これを基に、刻み等の加工をしていくため、家づくりをする上で非常に重要な工程。
作業中の大工さんの手元

-丸西さんは、大工歴24年で、今は棟梁をされているとのことですが、丸西さんが大工さんになられた頃と今で違うところはありますか?

丸西さん

僕が入職したての頃は「見て覚えろ」っていう時代でしたけど、今は丁寧に教えていく形に変わっていっていますね。

-今、丸西さんはどんなことを意識して教えているのですか?

丸西さん

僕は、どんどん質問してほしいと思っています。ですから、その子ががんばっていたら、できようができまいが、付き合ってやろうと思いますね。大工の基礎って刃物研ぎなんです。刃物研ぎは僕でもまだまだ完璧とは言えないくらい、奥深いものなんですが、それを真面目にできるかどうか、志があるかが大事なんだと思います。

並んだのみ

鑿(のみ)は、「大工の命」。研ぎ仕上げる技術の習得だけで何十年とかかる。


-師弟関係というより、パートナーのような関係なのですね。

丸西さん

そうですね。昔はみんな、自分の仕事を取られるといけないっていう意識があったと思うんですけど、僕はどんどん奪ってくれていいよと思っています。若い子には、それくらいの気持ちで挑戦してほしいですね。

作業中の白川さん

西尾さん曰く、「白川くんは2年目になって急に伸びた」。


-白川さんは、大工歴2年目だそうですが、大工さんになろうと思ったきっかけは何ですか?

白川さん

小さいときに、屋根の上で作業している大工さんを見て、「かっこいいな」と思ったのと、体を動かす仕事をしたいなと思っていたので、大工になろうと思いました。

-数ある建設会社の中で、高陽建設さんを選んだ理由は何ですか?

白川さん

大工さんがどんどん減っている中で、大工さんを自社で雇っていることや、かがわ技塾があることが大きかったですね。あと、会社として実現したいことがしっかりしているので、僕もそんな大工さんの一人になりたいなと思ったんです。

-実際に大工さんになってみて、どうですか?

白川さん

僕は工業高校で大工になるための勉強もしていたんですが、高校で習っていたとはいえ、レベルが違っていて、1年目はプロと素人の違いに慣れるのが大変でしたね。思っていた以上にしんどいですが、それを上回るくらい先輩方が優しいので、がんばれます。

-白川さんも2年目に入って、後輩ができましたが、何か変わった部分はありますか?

白川さん

1年目は、教えられるだけの立場だったんですが、2年目は、自分のことをしながらでも、広く目配りをして、先輩方が気付いていないことを見つけたりとか、後輩が困っていたら自分の方から「分からんかったら聞いてな。」と声をかけたりとか、雰囲気づくりをするように気をつけるようになりましたね。

-どのような大工さんになりたいですか?

白川さん

ひとりで家を建てて、材料の発注から段取りも全部自分でできて…という一人前の大工になることはもちろんですが、お客さんから「白川さんに建ててほしい。」と言われるような「任される大工」になりたいですね。

-一歩一歩近づいているのですね。伝統構法はやはり難しいですか?

白川さん

難しいですね。先輩方もきっと、僕らが刃物の研ぎをしている頻度や現場以外でどれだけ刻みの練習をしているかを見ながら、少しずつ任せてくれているのかなと思います。1年目に比べると、簡単なものは任せてもらえるようになりましたが、まだまだですね。

-白川さんから見て、西尾社長はどのような方ですか?

白川さん

たまに無茶なことを言うときはあるんですけど(笑)考え方は筋が通っていると思います。まだ僕達はできていないんですけど、社長が言っていることをちゃんと実践できたら、高陽建設はもっとすごい家づくり集団になるんじゃないかと思います。

白川さん(左)と丸西さん(右)

白川さん(左)と丸西さん(右)。


-丸西さんも、白川さんも、家づくりに真摯に向き合いながらも、和やかな雰囲気でお仕事されていましたね。こういう大工さんにもっと活躍してもらうための、「大工職人のブランディング」なんですね。

西尾さん

そうです。うちは大工さんを社員にしている分コストの面で不利な部分も多いんですが、うちだからこそ、大工の育成だけではなくて、大工のあり方も変えていくことができると思っています。まず、大工さんの所得向上のために「営業のいない工務店」にしたり、今後は大工さんに現場監督の役割も担ってもらって、その分大工さんの給料に上乗せしていったりしようと考えています。それだけではなく、ブランディングの一貫として、「かがわ技塾」や木造住宅ブランド「sorai」をつくり、平成31年には新しい「ものづくりセンター」が完成します。

-「ものづくりセンター」は、どのような役割になるのでしょうか?

西尾さん

「ものづくりセンター」は、柱などの部材や作り付けの家具をつくる場所でもあり、「かがわ技塾」の研修場所なので技術承継の場でもありますが、僕はお客さんに大工さんの姿や技を見てもらう場にしたいと思っているんです。若い大工さんが一生懸命つくっている姿を見せることが、お客さんの安心に繋がるんじゃないかと思うんです。いろんな方から「いい仕事をしますね。」と言っていただける一方で、「高いですね。」とも言われます。でも、「高い」って全然嫌な言葉じゃないと思うんです。良い材料を使って、腕の良い大工さんがつくっているから、当たり前のことなんです。ですから、ブランディングも大事で、「ものづくりセンター」を中心としたお客さんと大工さんの繋がりを通して、良い家だときちんと納得、安心していただいた上で住んでほしいと思っています。

「かがわ家博」で展示されている高陽建設のモデルルーム

「かがわ家博」で展示されている高陽建設のモデルルーム。
塗装も全て職人さんの手作業で、断熱材も自然のものを使っている。


-高陽建設さんでは、「家」ではなく「暮らし」を提供されようとしているのですね。

西尾さん

そうです。お客さんと大工さんや設計士さん、家に関わる人たちが対等な関係で、一緒につくっていければ、結果としてお客さんに良い「暮らし」を提供できると思うんです。そのために、顔の見える関係をつくっていきたいですね。

-西尾さんの目指す「大工さん」という職業はどんな形でしょうか?

西尾さん

僕は、彼らを「高収益高収入軍団」にしてあげたいんです。自分の仕事に誇りを持って、胸を張れるような職業にしてあげたい。そして、最終的に「高陽建設」という枠組みの中だけでなく、香川の難しい施工は彼らが担うといったような仕組みにできればと思っています。つまり、「高陽建設」ではなく、「大工さん」に家づくりの依頼が来るということです。「高いけど、良い仕事をする。」そんな風に、「大工さん」を今よりさらに「尊敬される職業」にしたいんです。

西尾直樹さん 掲載日:2019年3月5日 取材者:A・O