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人とこころをつなぐ、栄養

阪上 浩さん 堤 理恵さん 徳島大学 大学院医歯薬学研究部 代謝栄養学分野 

徳島県徳島市にある徳島大学の蔵本キャンパス、ここには医学部・歯学部・薬学部、大学病院があります。今回、国立大学で唯一、医学部の中に栄養学科を持つこの徳島大学で、臨床と地域をつなぐ動きをされている徳島大学大学院医歯薬学研究部代謝栄養学分野の阪上 浩教授と堤 理恵講師にお話を伺いました。




-そもそも堤先生が栄養学を志したきっかけは何だったのですか?

堤さん

私が栄養学を学びたいと思ったきっかけは高校1年生のときに経験した阪神淡路大震災です。家も父の経営する会社も全焼してしまい、避難所生活が続きましたが、そこで配給される食事は、市販のおにぎりや菓子パンが主で気持ちが沈みましたが、一方で炊き出しでは人のぬくもりを感じました。またその後食べることができた母のお弁当は今まで当たり前だった日常への感謝で胸がいっぱいになりました。そのときに、私は食べ物には「モノ」以上に人と人とがつながる絆や愛情を与える力があると思い、その奥深さをもっと追求したいと思いました。

-栄養学の先には、「食」を通して人を幸せにしたいという想いがあるんですね。

堤さん

そうですね。栄養にはそんな力があると思いますし、栄養士として活動している人は、そうやって人のためになりたい、一緒に健康で幸せな生活を目指したい、と思っている人が多いのではないでしょうか。献立を考える、栄養管理をする、栄養指導をする、そんな栄養士の仕事の本質には、人に喜ばれたい、人を健康にしたい、そういう気持ちがあって、美味しさや栄養というものを通してそれを叶えたいと思っていると思います。

-阪上先生は、お医者さんですよね。

阪上さん

糖尿病の研究者として実地臨床とともに糖尿病や肥満のメカニズムやその予防薬の研究をしていました。食べても吸収せずに便として排出させたり、体内で燃やして脂肪を溜めなくさせる薬も開発され、さらには肥満の人の食欲を落とす薬も一部開発され、製薬会社も研究を進めています。私も当時は食べても太らない薬を作りたいと研究をしていまして動物実験では効果のあったものもありましたが、最終的には上手くいかなかった。だって、たくさん食べた人が太らないって薬は、言ってみれば毒みたいなもんでしょ。そんなことを考えると、栄養学って薬では解決できないことに向き合うから面白い。深すぎて、僕にはまだまだわからないんだけれど。

-医学と栄養学ってそんなに違うものなのですか?

阪上さん

全然違いますね。臨床医学は、病気の原因を突き止めて、その原因に対応する薬を開発したいと考えるわけです。栄養学ではアプローチ法が違っていて、食べたい人を食べないでおくことや、がんなどで食べられない人に「いかに適切なエネルギーを摂取するにはどうしたらいいか」を研究しているのです。医者は薬を出して症状を軽減させたり、病気を治癒に向かわせることができるけれど、栄養士の仕事は、患者さんの生活や行動を変えていくという心理的なことに及びます。

-医学と栄養学では全くアプローチが違うのですね。患者さんとの接し方も違いますか?

阪上さん

食べ物は、人間が生きていく上で最も重要な部分です。患者さんの入院生活においても同じで、食べ物は非常に重要な役割を果たします。入院中の楽しみといえば食べることという人がほとんどです。

例えば、入院した時に、お医者さんは病気の話をするし、看護師さんは治療の経過の話をするけれども、管理栄養士さんは食べ物の話をするでしょう。患者さんが楽しみにしている「食べ物」というテーマで話をするから、患者さんとも仲良くなるし、食べられない人が食べられるようになるとすごく喜ばれます。食べ物を通して、医者が手を出せないような方法で、患者さんを支えることができます。そういうのが、ここ(徳島大学)に来てよくわかりました。

-徳島大学では、研究と臨床を両立されているのですか?

堤さん

今の私の研究スタイルは、まずは臨床現場にいって患者さんの抱えている栄養学的問題や日々の食事と病態との関係を分析しています。そしてそれを基礎研究で細胞や動物を使って同じことが起こるのか、そのメカニズムを明らかにします。それがわかったら、ではヒトの食事はどうしたらいいか、またヒトに戻っていきます。例えば、リウマチ患者さんでは筋肉が減るのが当然と思われていましたが、実は脂の多い食事を摂っている人ほど筋肉がたくさん減っていることが食事調査や体組成解析からわかりました。動物にも高脂肪食という脂の多い食事を与えると通常食よりも早くリウマチを発症し、その機序もわかってきました。だから、次はリウマチ患者さんに少し脂肪の量を減らしていく食事を勧めていく、というスタイルです。

   

同じように、臨床現場での疑問や問題を基礎研究にもっていくスタイルを集中治療や味覚障害の研究でも行っています。

   阪上さん

実は、救急医療現場において栄養学の観点から研究している人はほとんどいません。今まさに事故に遭った人、重症病態で人工呼吸が必要な人に、どれくらいの量を、どのような方法で、栄養を与えるか、そういうことを救急救命部のドクターと決めていきます。彼女の研究のおもしろいところは、栄養剤を適量投与するのはもちろん必要だけれど、過剰投与は逆に悪くなるということを提唱しているところです。

   

重症病態だけでなく、リウマチの話も同じで、世界で初めて、栄養は不足だけが問題ではなく、投与し過ぎるのもまたリウマチ病態を悪くするということを発見しました。普通、栄養をとるなら少ないよりは多い方が良いと思いがちですが、「適切」というのは実は思っていたよりも少なめだったということが、一つの大きな発見で、全ての病気に関係してくることじゃないかと思います。

そんな新しくて重要な発見をしているからこそ、今や栄養学の学会だけではなく医者が集まる集中治療などの学会にも教育講演者やシンポジストとして呼ばれるような管理栄養士になったのです。

   

-そういった臨床の中に溶け込んでいく栄養学ができるのは、徳島大学ならではなんですね。

阪上さん

そうですね。他にも、外来化学療法室に通院しているがん患者さんから「食べ物に困っている」という相談を受けたり、がん患者さんのための「がんサロン」も臨床心理士さんや看護師さんと一緒に、栄養士として堤先生は参加しています。

-がん患者さんのためのふりかけも開発されたんですよね。

堤さん

化学療法を受ける患者さんには味覚障害になる方が多くて、味覚障害でもおいしくごはんが食べられるように、と研究成果に基づいたふりかけを開発しました。化学療法によって生じる味覚障害にはそれを治すような薬はなく、「治療が終われば治るから」と患者さんは我慢を強いられてしまいます。あるいは、経口補助食品といって味が濃い栄養剤を飲むしかないのが現状でした。

ふりかけは、もともとはグルタミン酸の効果を粉末でみようとしていましたが、「ふりかけだったらいいのに」という患者さんの声に応えて大学院生がグルタミン酸ナトリウムの入ったふりかけを手作りしたのが始まりです。そのふりかけは口内炎があってもおいしく食べられるよう工夫されていて患者さんにも好評でした。何より「味覚障害で苦しむ人の心に寄り添った」大学院生の心が嬉しかったようで、ごはんを口にしなかった方がごはんを「おいしい」とおっしゃったのが印象的です。



-まさに、最初おっしゃっていた、食を通じて人を幸せにしたいということなんですね。臨床でも活躍されていますが、地域ともつながりを持った活動をされていますよね?

堤さん    

今は、徳島県でしか栽培されていない香酸柑橘である「ゆこう」の研究をしています。柚子やスダチと比べると特徴がないといわれる「ゆこう」は、生産量や生産者が減っていました。けれど、「ゆこう」は私にとっては大切なおばあちゃんの味だったので、自分にできる「機能性を見つけて付加価値をつけること」で、「ゆこう」の魅力を発信して、農業の継続につながればと思いました。

   

「ゆこう」には昔から「秋に収穫しても春まで腐らない」や「皮をまいておくと害虫が来ない」などの民間伝承があり、菌に強いのかなと考えて実験すると、口腔内の菌や臭いをきれいにしたり、腸内細菌も整えるということがわかってきました。

-その「ゆこう」の効果をアピールするために、「徳島クワトロシトラス」のかわいいキャラクターを作ったり、商品開発をして地域と繋がったりされていますが、それはどのようなきっかけがあったのでしょうか?

堤さん

「徳島クワトロシトラス」は、需要も価格も安定しているけど過疎化の進む生産地や種の再活用が課題となる柚子、徳島県の特産物を超えて産業として成り立つためのスダチ、特に果皮の活用、生産維持をしたい「ゆこう」、そして農業の魅力として次世代に引き継ぐために作られた新品種の「阿波すず香」、それらがみんな地域の人と研究者が一緒にそれぞれの課題に取り組める活動としてつくったプロジェクトです。4姉妹として仲良く一緒に育ち合うという意味、そして美しい香酸柑橘類のイメージで、キャラクターを作りました。

   

例えば、「ゆこう」の主な生産地である上勝町は葉っぱビジネスで有名な町ですが、人口減少と高齢化は依然問題です。私の曾祖母のふるさとでもあり、「ゆこう」に関する取り組みで町の活性化のお手伝いができればと思いました。研究のゴールは機能性を見つけることではなく、その成果が農家の人の笑顔ややりがいにつながること。そのために、わたしたちは学生と一緒に「ゆこう」の収穫や「ゆこう畑」の草刈りをしたり、それを自分たちで搾汁したり。その出口の部分が商品開発です。収穫から、その「ゆこう」を使った研究、そして商品開発、ずっと地域の人に支えられ、一緒に話をしたり、協力し合ってきました。

 

-高知の「ぶしゅかん」もそうですけど、その地域に行かないとわからないような食べ物ってありますよね。

阪上さん

たぶんそういうのはたくさんあると思います。「ゆこう」の研究のよかったところは、蒔いておくと雑草が生えにくいなどの民間伝承を具象化したところで、機能性研究のよいきっかけでしたね。

   堤さん    

 「ゆこう」の研究は農家さんの気持ちだけではなく、学生にも自分の研究に親しみとやりがいをもってほしくて、「ゆこうキレイ」というコンセプトで勧めています。単なる健康のため、病気予防、という存在ではなく、「ゆこう」を食べることでキレイになる、そんなブランド性が持てればいいなと思います。

   

実際に、こうした研究や活動を通して、「ゆこう」の商品価値も上がってきました。これまで加工が主でしたが、今年は青果でもほかの柑橘と同じくらいの価格で売り切れてしまっています。

  

-5年後、10年後、お二人はそれぞれどうなっていると思いますか?

堤さん

私は10年後も今と違う新しいことを見つけるべくして何かをしておきたいなと思っています。

   阪上さん    

5年後、10年後のことは誰もわからないけど、また違うことやってるんじゃないのかな。「ゆこう」の研究は、うまく機能性の研究をして、商品化して、地元に返してっていうところまでだと思うけれど、また違うことで新しいことに取り組んでいるのではないでしょうか。

   

僕も10年前は糖尿病の研究をしていただけで、今こんなことやっているなんて一つも思ってないからね。大学って、興味のあることをチャレンジさせてくれる場所ですよね。残ってる人をみたら、そんなこと思いません?(笑)

   堤さん    

確かに、くせはありますね(笑)

   阪上さん    

研究者はくせが強い方がいい(笑)

   

―すごく息の合ったお二人ですが、最後に、堤先生を一言で表すと何でしょう?

阪上さん

決して嫌と言わない人ですね。全ての人にそうではないと思うけれど、こんなことやってみてっていう話(研究)は自分なりに咀嚼して、こんな形ではどうですか?と持ってきてくれる。もちろん面白い話を全部彼女に振ってる訳では無いのですが、これはもしかしたら興味持つんじゃないかなと思って振ると全部具体化させてくれます、マルチな人ですね。

   堤さん

私、とがってないですよね?

   阪上さん

俺的にはとがってる(笑)それもいいところでしょ(笑)

   

-堤先生からみた阪上先生はどうでしょう?

堤さん

最初に徳島に来たときのメンターの先生が「研究というのは最も贅沢な遊び」とおっしゃっていたのですが、私は学生の時は遊びっていう余裕が全然なくてわからなかったんですけど、阪上先生と一緒に研究をし始めてそれがよくわかるようになりましたね。なので、私にとっての最高の遊び友だちですね。

   阪上さん

なんや、俺らは友だちか(笑)。まあ、認めてもらってるってことなんかな(笑)。

   堤さん

何か新しいことをしたいときに一緒に考えたり、助言をくださったり、協力し合えたり。先生のもとで研究できるこの研究室はそうやって一緒に走れる仲間がたくさんいるということです。(笑)



掲載日:2020年5月22日 取材者:A・O